番外編TIPS:世情編:神託書
世界を支配する神が人類と交信するための有り難い書――という触れ込みの落書き帳。重要な情報が載る事もあるが概ね神のブログかSNS感覚で使われている。
バッカス王国にある神託書は建国当初はかなり真面目にバッカス国民の不安を煽る内容で書かれていたが、昨今は九割方、今日食べたものや異世界のゲームを利用した改造ゲームのガチャ結果をわざわざ写真付きで公開している。
残りの一割は「今後の世界情勢」「特殊な魔物の討伐状況」「新たに制定された協定」「その他告知」などが記されている。
今後の世界情勢については特定地域の魔物総数や強さの増減について記され、特殊な魔物の討伐状況では竜種や悪魔が倒されたか否かについてが公表される。悪魔に関しては殺すと消え去るため討伐の証を持ち帰るのが困難であるため、専らこの神託書を頼りに討伐可否を判断している。神は神託書でもふざけた記述はしているものの、事の真偽に関してはキッチリと不正なく記している。
魔物と世界開拓事業に関する情報も記されるため、冒険者達も神託書は参考にしている。どうでもいい事が大半なので辟易しながら読まれているが、それでも時折、今後の趨勢についてほのめかす事が書かれているので見逃す事が出来ない。
神託書は基本、政府が保管しているが内容の殆どは書き写して一般公開に供されている役に立ったり立たなかったりする神託である。
「つまり、神の下す十二の試練を突破したら教える、と」
「そゆこと」
政府保管の神託書を前に、イアソンは政務官長と話をしていた。本来、神託書の原本は政府の人間しか見る事が出来ないが、イアソンは昔のツテとアルゴ隊を率いている事を頼りに神託書の前に居座っていた。いち早く神託を知るために。
イアソンはゴール杯の運営を手伝っていた神と対面し、「神の課す試練を突破したら巨人の少年の故郷を教える」という交渉を取りまとめていた。
そして、詳細な内容は後日、神託書に記すと言われており、そのため無理を通して書を見ていたのだ。
「神と交渉しても、望む結果が得られるとは限らんぞ」
「つっても、政府もアイツの親がどこいるか掴んでないんでしょ? 仕方ないよ」
「その件に関しては続報がある。あの子はおそらく、ティターン士族の者だ」
「ティターンって……行方不明の埒外士族じゃん……」
政務官長の言葉にイアソンは眉を潜めつつ、続きを促した。
遺伝子情報から巨人の少年の出身を探したところ、最も近いのがティターン士族という、バッカスに反抗的な埒外士族の血に近いという判明したのだ。
「元ティターン士族の戦士、単眼鬼・エイ・マクモーナの遺伝子との照らし合わせでな。だが、あの戦争狂の子供というわけではない」
「バッカスに迎合しなかったティターン士族はいまどこいるかわかんないしなぁ……。どっちにしろ神のヤローの試練とやらは受けなきゃダメなわけだ」
「そうなるが、あまり無茶はするなよ。お前が騒乱者の身に落ちたら厄介だ」
「ぼくだけならそんな厄介じゃないっしょ。雑魚ゴブリンだから平気」
「自分がいいように使っていた諜報員に敵対されるのが嫌なだけだ」
「おやおや、鉄血宰相サマにも情がおありでしたか?」
「私の手管をよく理解している貴様が敵に回るのは面倒、というだけの話だ」
「うーん、この冷血漢」
「ともあれ、あまり無茶はするなよ。こちらでも引き続き調査はする」
「うん、そっちにも期待してる。……よろしくお願いします」
「おそらく、待ち受けている結果はろくでもないものだ。神が絡んでいる以上な」
「…………」
「お前は大丈夫だろう。だが……あの少年の事は、よく見ておいてやれ」
「うん……」