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番外編TIPS:バッカスの祭編:ゴール杯


 カンピドリオ士族が主催するチーム形式の郊外長距離走大会の事。バッカス建国421年より始まり、基本的に年に1回のペースで開催されている。


 郊外長距離走は魔物がうろつく都市郊外を突っ切るレースで、無法地帯を舞台にするだけに普通なら様々な違法がまかり通る競争となる。


 が、神が郊外長距離走開催には一定の理解を示しており、「面白いうえに阿鼻叫喚が聞けるならよし」と協賛し、ルール違反のチェックと現場の状況をリアルタイムで映像配信している。カンピドリオ士族の活躍次第でへそを曲げた神が「やだやだ! 今回から協力してあげないんだからねっ! ばか犬っ!」とのたまっているが大体、1ヶ月ほどでほとぼりが冷めて協力するようになる。


 ゴール杯は「商品宣伝」の色が濃い大会である。


 郊外長距離走で勝利するうえで必要な能力は冒険に必要な力に直結し、レースで使われる物品も冒険者が使うに相応しいものである。


 それだけにどの郊外長距離走で優勝した者が使っていた装備は大会後、飛ぶように売れる。ゴール杯はその商機に対してかなり露骨に攻勢をかけており、レース放映の合間合間にCMを入れるよう、神に催促してこき使っている。


 アルゴ隊は「カンピドリオ士族が大好きな全裸で出場してやろうぜwwww」とゴール杯に出場し、ゴッド隠蔽処理モザイクに守られながら走破。見事優勝して「装備なんて関係ねえwwww関係ねえwwwww」とカンピドリオ士族を煽るという事を五年連続で繰り返して出場禁止にされている。


 ただ、アルゴ隊所属のアタランテとアッキーは自士族のチームに助っ人として参加する事がある。前者は前半は力を温存し、後半はチームから離れて単独でアタックする戦法を得意とし、後者は出場するよう呼ばれていたのに忘れる事がゴール杯以外でもしばしばある遅刻魔である。1日遅れでスタートしたのに優勝するという事もやってのけてはいるが。


 イアソンはアルゴ隊が拾った巨人の少年と共に泊りがけでゴール杯・アラク砂漠横断レースを観戦。神によるパブリックビューイングでレースの様子を見つつ、屋台や出張店舗の食事を楽しんだ。


 まだ多少は人を怖がりつつ、かなり慣れてきた少年は戸惑い、強張りつつも楽しげなイアソンにレースの様子を解説してもらいながら大いに楽しんだ。話の大半が理解出来なかったが、それでも少年は楽しめていた。


 ただ、時折、親子で連れ立ってレースを見に来ている者達をぼんやりと眺め、親が子を抱き上げている姿を羨ましそうに見つめていた。


 イアソンもやがて、それに気づく事になった。



「……親と一緒に来たかったか?」


「きた……?」


「パパとママと一緒に来たかったかって言ったんだ。わかるか?」


「まぁま……わかぅ……」


 イアソンが机から見上げると、少年は「まぁま」と言って呻き、目に大粒の涙を浮かべていった。それは雨粒のように降り、小さなイアソンの頭を濡らした。


「お前は……親の事が好きなのか?」


「まぁま……まぁま……」


「そっか……やっぱ、会いたいんだな……」


「ぅぁ……れも、まぁま……ぼく、なぐた……」


「なに? 殴った?」


「ゥッ……! いたく、なかたけど……まぁま……ぼく、きらい……。ぼく、いらないされた……ずと、まえ……まぁま、おこてた……こあい、かお……!」


 イアソンは顔を強張らせつつ、少年がどこから来たかについて政府が調べた調査結果を思い出していた。


 政府の調べではまだ少年の素性はハッキリしておらず、最も可能性が高いのが「巨人系の異世界人」というものであった。だが、他の可能性もまだ失せてはおらず、少年を連れて様々な都市郊外を巡り、覚えがある場所が無いか問いかけたがハッキリとした答えは得られないでいた。


 言葉で問いかけてもまだ完全には意思疎通が出来ていなかったのだ。だが、仮に出来たところで少年の方も今よりさらに幼い頃の話ゆえに答えに至る言葉は得る事が出来なかっただろう。


 だが、今はほんの少しでも、自分の想いを告げれるようになっていた。


 自分をそのように成長させた者に対し、少年は絞り出すように告げていた。


「まぁま……ぼく、きらい……。でも……ぼく、あいたぃ……」


「…………」


「だっこ、してほしぃ……!」


 イアソンは困り戸惑いつつ、「そうだ」とつぶやいて色ペンと紙を渡し、少年に「お前、自分の親の顔、覚えてないか?」と似顔絵を描くよう促した。


 少年は最初、何をすべきかわかっていなかったが、話しているうちに「まぁま」「かお」と単語を並べ、おぼろげな記憶を頼りとし、必死に握りこぶしでペンを握って一つの絵を描いた。


 そこに描かれたのは子供の落書きのようなものであった。少年は自信なさげながらも黒ペンで線を引き、赤ペンで色塗りをし、頭に何かが突き刺さって血まみれになっているような人間らしきものの絵を見せていた。


「まぁま……」


「う、うーん……? やっぱ、さすがにこれじゃ判別つかないな」


 イアソンは困り顔を浮かべつつも、少し考え込んだ後、少年を置いて外出し、レースを観戦していた者に話しかけていた。


「おい、お前。……お前なら、アイツの親がどこいるか、知ってんだろ?」


 その問いに返ってきたのは嫌らしい笑みで、イアソンは待ち受けている結果を予感しつつも、相手方との「交渉」に乗る事を決めていた。


「イアソン君、それはもちろん、生死を問わない話でいいんだよねぇ?」


「…………」




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