番外編TIPS:バッカス街歩き編:アンボワーズ
ガリアの遥か北にある魔王直轄都市。拓かれた当初は開拓戦線の橋頭堡として使われていたが、バッカス建国から400年以上経ってからは前線は遙か先にあり、他の都市の存在もあって強力な魔物も来づらい平穏な都市である。
前線基地としての役割が終わった後、互助組織アマゾニスが都市の一部を借りていき、事業拡大と共にそれを増やしていき、現在は都市丸々一つをアマゾニスで借りている。ただ、魔王直轄都市である事は変わらず、防衛の手配は基本政府側でアマゾニスは委託を受けて防衛にも携わっている。
アマゾニスは首都にも支部を構えているが、互助組織としての機能はアンボワーズに集約しており、組織の事業も大半がここで行われている。
特に盛んなのが繊維産業であり、繊維作り専門の紡屋が多数、アンボワーズで暮らしている。主な取引先はカンピドリオ士族のガリア商工会だが、それ以外からも受注しており、繊維業界ではアマゾニスブランドとしてそれなりの地位を保っている。調係も務めた紡屋もアンボワーズで紡がれる糸を愛用していた。
業者向けの販売だけではなく、1メートル以下の少量からでも生地が買える事から個人にも人気の繊維街として栄えており、手芸趣味人のちょっとしたメッカともなっている。アマゾニス側も繊維街として栄える事を推しており、よく競技会を主催している。
アマゾニスがDV被害者らを匿っている事から加害者側はアンボワーズへの出入りを禁止されており、そのため「アンボワーズの転移パスを買えないヤツは屑」と言われる事もある。
アマゾニス代表のオトレレに連れられ、アンボワーズに来たイアソンと巨人の少年は「母親かもしれない」とされた人物と会ったが、検査の結果、血の繋がりは無いとわかる事となった。
イアソンはその事に心底ホッとした自分を恥じ、会食の場から「夜風に当たってくる」と逃げ、それを追ってきたオトレレに話しかけられるのだった。
「イアソン様は本当にあの子を気に入っているのですね」
「……何だよ、笑いにきたのか?」
「可愛い子だとは思いますが、イアソン様は別に可愛いから愛でているわけではないのでしょう? どこがお気に入りなのですか?」
「……アイツにちょっと似てるからさ」
オトレレはイアソンの言葉に目を細めて微笑みつつ、「そんなに気に入ってらっしゃるなら、正式に養子にしてはいかがですか?」と言った。
「よ、養子? そんなの……無理だろ、アイツも嫌がる」
「嫌がったりはしないと思いますよ。彼もイアソン様の事を慕っているのは、傍から見ていてもよくわかります。今回は実親では無かったとはいえ、私どもの方で彼を引き取ってもいいのですが……イアソン様が一番の適任では?」
「…………ぼくが一番ダメだろ」
「そうでしょうか?」
「お前は、ぼくがバッカス建国前に何をしてたかは知ってるだろ?」
「ええ。当時を知らないので伝聞ですが。しかし、もう400年以上前の話です」
「時間が経てば禊が出来るような話じゃない」
月に雲がかかり、夜闇が色濃くなる中でアルゴ隊の総長は首を振り、「ぼくは親になれないし、なろうとも思わない」と言った。
その顔には深く暗い憎しみの感情がハッキリと浮き出ていたが、巨人の少年が来た時にはその表情を取り繕い、なんでもない様子で迎えていた。
「その……あれだ、気を落とすなよっ」
「ァー……?」
「アレだよ、母親の……うん、ああ、まあ、いっか」
「ゥ…………」
「それより、明日から遊びに連れていってやる♪ ゴール杯が始まるからな。宿取ってるから屋台めぐりしつつ現地観戦するぞっ!」