番外編TIPS:集団・組織編:アマゾニス
バッカス王国建国初期から存続し続けている冒険者クランなのだが、発足時から冒険者クランと言うよりは互助組織としての色が強い。
アマゾニスは「帰還者問題」を発端に発足している。
帰還者問題とは西方諸国で奴隷の身に落とされていた者達が救助され、自分が所属していた士族に帰ろうとしたものの受け入れを拒否されたという問題である。帰還奴隷問題とも言うが、その言い方は控えられている。
士族への帰還を受け入れられないとはつまり、自分の実家に戻れないという事だが、そういう扱いを受けたのは「西方諸国のヒューマン種に汚された存在」として忌避された事が大きな要因として挙げられる。
ただ、全ての元奴隷が士族に戻れなかったわけではない。同情されて迎え入れられる事の方が多かったのだが、それでもなお受け入れを拒否されたのは西方諸国で生んだ子供も「士族に入れてほしい」とした子連れの女性であった。
子供の父親が西方諸国で亜人として虐げられていた者ならまだ子連れでも受け入れの余地はあったが、父親がヒューマン種あるいは全く誰かわからない場合、「そんな汚れた子供は捨てないと迎え入れれない」「捨てようが捨てまいが受け入れない」と拒否されたのだ。前者に関しては赤蜜園などに子供を預けて士族に戻るという事もあったが、都市郊外で赤児のアンデッドが生まれる事もあった。
例えヒューマン種との間に無理やり産まされた子供であっても我が子だと手放す事を拒否した母親、あるいは西方諸国生まれの二世奴隷が士族から除け者にされて発生したのが帰還者問題である。
この時、出来た互助組織がアマゾニスであった。
帰還者達はバッカス政府によって保護されていたものの、帰還者達もお互いに寄り添い合って助け合う事を誓い、除け者にされた帰還者達を救うために助力すべく駆けつけた者達がアマゾニスという互助組織を立ち上げたのである。
その互助組織が冒険者クランとなったのは冒険者稼業で金銭を得るためで、現在に至るまで8名の騎士になるほどの女戦士も輩出している。そのためアマゾニスと言えば腕利き冒険者を擁する冒険者クランであるという認識で、発足時の経緯を知る者は年々減りつつある。
組織内で冒険者稼業以外の産業にも手を出しており、大成功とまではいかずとも堅実に事業を存続させている。冒険者クランとしてのアマゾニスの構成員は300人ほどだが、それ以外の形で関わっている者は2万人を超える。もはやちょっとした士族である。
アマゾニス以外の女性のみで構成される冒険者クランとも密接に関わりがあるため、そういった下部組織あるいは同盟関係にある冒険者クランも束ねた数は冒険者だけで3万人を超える。
現在は政府からの帰還者問題に関する金銭的な援助は打ち切られているものの、仲違いしているわけではない。むしろ密に連絡を取り合い、魔王直轄都市の一つをまるごと一つアマゾニスの名義で借りている。
政府との関係が続いているのは自発的な互助組織発足により、政府の負担が多少なりとも軽減されたという事だけではなく、現在は家庭内暴力の被害者や強姦被害者等の保護活動も行っている事が大きい。そういった事情もあって、赤蜜園とも度々連絡を取り合い、連携している。
他、カンピドリオ士族とも武力や商取引で関わりを築いている。ただ、同じ戦場で共同戦線を張る事は少ない。協働はするものの、カンピドリオ士族側が全裸の男を戦場に出している事からお互い、配慮し合ってそこは避けている。どうしても共同戦線を張る場合はカンピドリオ士族側が珍しく、上から下まで着衣に気をつけて戦う、という光景が見受けられる。
互助組織アマゾニスの現代表は狼系獣人のオトレレ。冒険者クラン・アマゾニスの総長も兼任しており、時に前線に出る事もある元騎士である。
イアソンと巨人の少年をアマゾニスに招いたオトレレは、道中でイアソンに事情を説明していった。巨人の少年にいきなり話すには重い話であるために、ひとまずはイアソンにだけ語った。
「ウチで保護している子の中に、巨人種の男に強姦された子がいまして……」
「その子が生んだのが、アイツって事か」
「まだその可能性がある、という段階です。……実のところ、産んだ子供はその男に都市郊外に捨てられているんです。捨てられた時期が、あの少年の推定年齢と近しいものがあるので、確かめておきたいんです」
「……捨てられた子供はもう、さすがに死んでるだろ」
「そちらもまだ確定していません。ウチの冒険者が捨てられた近辺を探したところ、身につけていたものを体内に残した魔物を見つけただけですので……」
「死んでるって……。あ……アイツじゃないって……」
「イアソン様は、あの子を取られると警戒なさっているんですね」
「…………」
「捨てられた子本人である場合、保護している母親が一緒に暮らしたいと言っています。その時は冒険者を辞めていただき、ウチに来てもらいます。あの方の名前まで贈って、入れ込んでいるのはわかりますが……親元に返してあげてください」
「…………わかった、わかってるって……」
イアソンは「そうした方がいいだろう」と思いつつ、「そうならなきゃいいな」と思ってしまう自分に自己嫌悪を抱かずにはいられなかった。
その気持ちはオトレレとの密談を終え、少年のところへ戻り、暗い表情をしているのを心配され、撫でられた後も晴れる事は無かった。