番外編TIPS:冒険者関連情報編:シャンベルタン氷床
アルザス山脈及びエーデルツヴィッカー南部に広がる広大な氷床。首都サングリア10個分を超えてなお余るほどの広さを誇る。
表層は雪原に覆われているものの、一年を通して吹雪く事はあまり無い。雪原の下は浅いところで1キロの氷塊が静かに存在している。
神器によって出来た異常地帯――神成領域であり、本来は氷床が出来るような場所ではない海と大地を凍てつかせている。局所的な現象であるため寒気が領域外にはあまりこぼれ出ていかず、氷床の規模のわりには吹雪や氷河が発生し辛い場所である。例外としてはアルザス山脈周辺で、こちらはレイライン経由で影響を及ぼし、凍てつかせている。
氷の異常地帯としている神器・聖槌はシャンベルタン氷床の地下奥深くに住まう竜種が飲み込み、1000年以上に渡って眠りこけている。バッカス政府が捜索中だが未だ正確な所在はハッキリしていない未回収神器である。
ただ、下手に回収してしまうと氷床が溶けて海面上昇を招く危険性もあり、慎重に扱う必要がある。神が騒乱者をナビゲートして神器を回収し、悪用しようとした事もあるが近づき過ぎた騒乱者が一瞬で氷像と化すため、「あー……ごめん、これアタシも回収無理だわ」と諦めて放ったらかしにしている。
シャンベルタン氷床は単に氷塊を形成しているだけではなく、氷床内部に迷宮を生成している。表層部にいくつか存在している縦穴から内部に入っていく事が可能で、そこには武器防具の材料になる特殊な氷、鉱石、神がせっせと埋めた財宝、異世界より転がり込んできた遺物が存在しており、バッカスの冒険者達はそれらを目当てにこの氷床迷宮に挑んでいっている。
氷床を掘る事も不可能ではないが、既設の通路以外の穴は許さないとばかりに神器が影響を及ぼし、直ぐに穴を塞いでいってしまう。そのおかげで50mほど先に財宝があるのに何キロも遠回りしないとたどり着けない事すらある。
迷宮は毎年、決まった時期に一度完全に閉じてしまい、閉じきってから一週間ほどで全く新しい経路の迷宮が出来上がる。これが神器捜索を長年難航させている最たる理由で、うっかり再生成時期に迷宮内に留まっていると魔物達と共に氷漬けとなるので注意が必要だ。
討伐計画課の課長から振られた依頼により、氷床の地上部で暴れまわる新種の魔物の引き狩りを請け負ったアルゴ隊は無事、依頼を完遂。死体を解剖して検分したがっているバッカス政府に丸っと引き渡し、意気揚々といった様子で報酬片手に都市へ戻り、豪遊していった。
ただ、総長であるイアソンは引き狩り見学に来ていたタルタロス士族の戦士・テラモーンと言葉交わして以降、不機嫌そうな――それでいて酷く迷っているような表情で市壁上に佇んでいた。
それを心配したアルゴ隊に拾われた巨人種の少年はオロオロしながらその側にいたが、数人の部下を連れた狼系獣人の女性に声をかけられる事となった。
「イアソン様」
「ん……おっ? オトレレじゃん! 久しぶり~」
「お久しぶりです。まだ生きていらっしゃったんですね?」
「しょっちゅう死んでるよ! ウチの奴らがぼくを労らない所為でさぁ」
イアソンは女性と親しげに言葉交わした後、用向きを訪ねた。
「今日は何しにここに来たの? 氷床迷宮攻めるわけでもないんでしょ?」
「ええ、イアソン様にお願いしたい事がありまして。……そちらの巨人の少年と一緒に来ていただけないでしょうか? その子、ウチの子かもしれないので……」
「は?」
「ァー……?」
「なんて言えばいいかしら。貴方のね、ママがウチにいるかもしれないの」
「まぁ……ま……?」
「…………」