番外編TIPS:集団・組織編:討伐計画課
冒険者ギルドの一部署。世界全体の魔物討伐計画を立てる役割を担っている。
バッカスの世界開拓事業を進めるうえで魔物の存在は切り離せない驚異である。ゆえに魔物災害、資源採掘、埒外士族や西方諸国との折り合いなどの様々な要素を鑑みたうえで魔物討伐の長期計画を立てる事は非常に重要となっている。
例えばA大陸の開拓を進めていく開拓方針が政府や士族長会議の閣議で決まった場合、A大陸の魔物を出来るだけ減らすよう、開拓に先んじて討伐隊を差し向けていかねばならない。ギルド編成の討伐隊だけではなくA大陸での魔物討伐の流れが生まれやすいよう、A大陸を舞台とした報酬の良い依頼をギルドで発布していき、冒険者の行動をコントロールしていくのだ。
この手の長期計画は神の横槍で崩されがちである。
後の開拓を睨んで露払いを派遣したところ、別の地域で魔物の活動が活発になり、そちらに戦力を割かざるを得なくなると長期計画の進捗が遅れる事となる。なるのだが、かといってまったくのノープランの方が開拓が進まなくなるので、横槍に応じて順次、計画を修正していくのも討伐計画課の仕事だ。
そのためバッカス政府内でも屈指の「神のタライが降る部署」であったのだが、タライ投下が激減した事で少し、静かになった。タライの片付けに追われていた清掃員さんもニッコリである。横槍は減ってないので職員の呻き声は聞こえるが。
討伐の長期計画は世界開拓事業の方針だけではなく、既に拓かれた都市近郊の治安維持のための計画も練られる事となる。B都市から50キロの地点に飛竜の巣が作られつつあるのであれば程々のところで討伐隊を差し向けたり、周辺に森狼の数が増えすぎているようであれば依頼報酬で冒険者を誘致し、駆除を進めさせるという計画も立てるのだ。
計画を立てるうえでの情報収集は調査課から上がってくる情報や士族戦士団、有力な冒険者クランからの聞き取り調査等を頼りにしている。ただ、士族戦士団によく見られる傾向だが、自士族が有利になるような情報開示を頻繁にしてくるため、真偽を見極めるために多角的に情報を精査する必要がある。
もちろん、嘘八百ばかり並べられると士族の経営に悪影響が出ていく事になるが、その辺は士族側も巧みに言葉を並べている。
収集された情報は課内で精査検討の後、草案が提出され、政府内及び計画区域内に自治都市を持つ士族の意見とすり合わせた後に正式に発表となる。
この長期計画は基本的に誰でも閲覧可能。バッカス政府として注力していきたい地域と魔物討伐に関しての情報が掲載されているため、それに沿う形で今後の冒険計画を練る冒険者クランも少なくない。
政府の意向に沿うのは考課的な意味だけではなく、金銭的な見返りも期待出来るためだ。早め早めに今後開拓していく地域で活動し、結果を残していけばギルドから「あの地域はあのクランに任せるのが正解だな」と目をかけてもらえる。
討伐計画課は首都1丁目の冒険者ギルドの一角にオフィスがあるのだが、それだけではなくゴルゴー監獄にも討伐計画課用の部屋がある。
これは討伐計画課の課長が監獄にいる影響である。監獄内は神の干渉を跳ね除ける事が可能で、読心対策として課内の最終決定を行う課長が獄内に留まっているわけである。本人が死ぬか後任が決まるまで続く事になる予定。
現課長は魔王の側近政務官として世界開拓計画及び魔物討伐絡みの差配で活躍し、迅速にして巧みな人員配置で「雷光」の異名で恐れられている人物。計画課の課長だけではなく獄内の研究所で研究員としても働いている。士族長として士族を取り仕切っていた経験もある。
シャバと監獄を反復横跳びしているイアソンも、バッカス最強冒険者クランの総長という事もあって度々、獄内に来た時は計画課の課長に呼び出され、世界情勢に関する所感報告をさせられている。
イアソンの仕切りでTRPGをしながら報告を聞く事が多いが、イアソンは「雷光は規則の隙間を容赦なくつきまくる上に無茶するから嫌い……」と批判し、やりたがらないが無理やりGMをさせられている。
「それじゃ、あんにゃは近くの河から水を引き込んで、地下に流すよ?」
「おいっ! 中に人質がいるんですけどぉ」
「でも、じっじがやっていいって言ってたもん……」
「やればよろしい。人質生かしておくと後で相続問題発生するの明らかだからこの機会に殺しておこう。相続争いしてる相手から報酬貰えるかはイアソンの裁量次第だね」
「絶対ゆるしゃにゃい。なんで次の物語の取っ掛かりを潰そうとするの」
「じゃあそこは犯罪者として追い始めればいい。儂は孫と一緒に隣国に楽しく逃げるよ。隣国についたら前々回で築いたコネで適当に有耶無耶にしようか」
「殺ったぁ♪」
「やったぁじゃない! はーーーー! こいつらの相手してると疲れるぅ」
「代わりに良い儲け話をあげよう。シャンベルタン氷床を荒らし回っている竜種がいてね。ちょっとそれを所定の場所まで引き狩りしてきて欲しい」
「資料くれ。…………ふーん、昨日から氷床への出入り制限入ったとは聞いてたけど、全長300メートルで時速300キロか」
イアソンは計画課課長から振られた依頼を吟味した後、「まあウチなら余裕」と言って受ける事にした。相手の顔色を伺いつつ。
「何か最近、開拓戦線異常アリって感じ? 獅子が出てきた辺りから、そこら中に妙な新種が増えてるっしょ。竜牙兵とかさ」
「気になるかな?」
「ぼくらは儲かればそれでいいよ。首突っ込み過ぎると面倒な事になる。儲かって楽しけりゃそれでいい。ああでも、引き狩りの終端がタルタロスの自治都市か」
それはちょっと面倒くさいな、と顔をしかめつつ、アルゴ隊の次の仕事が決まっていく事となった。




