番外編TIPS:世情編:バッカス王国の刑罰
バッカス王国において犯罪者の扱いはあまりよろしくない。軽犯罪はさておき、重犯罪や常習犯は人権を取り上げられたかのような酷い扱いを受ける事もある。
精神的に一番つらいとされる罪は石化刑とされている。石化薬を使い、犯罪者を無理やり石像に変えてしまう罪なのだが、石化された本人は真っ暗闇の中でピクリと動けない状態になる。意識を保ったまま石となり、寝ようにも眠れない状態となる。最悪、寿命が尽きるまで石のままという永遠の退屈が訪れる。
思索に耽る事は可能だが、外部からの刺激が一切ないないため、余程の人物でなければ静かに発狂していく事になる。が、いざ石化させられて数時間経たないとキツさがわかりづらい事から「石化刑とか怖くねーっすわwwww」と笑顔で答える犯罪者もいるほど。10年ほどして石化解除するとあら不思議、笑顔が消えている、という事もしばしば。
石化による拘束という意味では自由刑ながら、精神的な苦痛から廃人になる者も出てくるため身体刑的なところがあり、現在も「石化刑は自由刑か身体刑か否か」は学会で論じられ続けてている。
バッカス政府としては「お金かからない」「管理が楽」「身動きしないので省スペース化に貢献」ことから石化刑は人気。だが誰も彼も石化刑に処すのは精神的苦痛から惨たらしいため、犯罪を犯すと即石化刑となるわけではない。
それでも便利な石化刑なので、現在も「意識は完全に眠らせた状態の石化刑」の開発が進められている。これが可能になれば監獄の広さが現在の10分の1以下に出来るという試算が出ている。
監獄省スペース化狙いの刑罰では小人刑というものも存在していた。これは治癒魔術を使い、手のひらサイズの人間に整形するというものだったのだが、ゴブリン種はさておきそれ以外の種族では知能に著しい退行が見え、結果、小人囚人同士の乱闘、共食い未遂が起き、個別に小屋に入れたところで管理のために見回っていた人間を「巨大なばけもの」と認識して発狂する者が続出した事から廃止となった。石化と小人の合わせ技に関しては、まだ検討中である。
検討されたものの見送られた刑罰だと性転換刑というものがある。性犯罪者を魔術で性転換させ、被害者と同じ目あるいはそれ以上の陵辱を施すというものである。さすがに魔王が検討段階で差し止めさせ、性器没収刑で済まさせられる事になった。なったはずである。
石化刑に処されるほどの重罪を犯していないものは懲役・禁錮・拘留される事となる。こちらは石化刑と違って食事があり、毎日風呂に入る事も出来る。囚人によっては身体を洗って貰うサービス付き。裸一貫で風呂代わりの穴に放り込まれ、全身を肉々しい触手に揉み洗いしてもらえるのだ! なんと、洗って貰えるだけではなく大量のシャンプーまで使ってもらえる! スゴイ! シャンプーが出てくるのは触手の先っぽである。何もいかがわしくない。
囚人によっては他の囚人と共に遊戯に興ずる自由時間もある。
監獄内で一番人気の遊びは卓上遊戯――TRPGである。遊ばれているルールは多種多様ながら一括りにして見ると自由時間のある囚人の7~8割はTRPGで遊んでいるという状態が200年以上続いている。
バッカス政府も「他者と触れ合う事で社交性を磨かせる」という目的で監獄内のTRPGを推奨している。が、TRPGに使うサイコロが監獄内賭博に使われる事もあるため、その手の賭博が表沙汰になるとサイコロは一時没収。TRPGも全面禁止という罰則が課される事となる。
全面禁止となるとTRPGガチ勢の囚人は非常に困るため、常時、ガチ勢囚人が「博徒はいねーか!」と看守に代わり、目を光らせている。キレ方もガチなのでバラ色の監獄生活を送りたい者は滅多なことはしない事をオススメする。一度やらかすと陰湿なイジメが続くこと間違いなし。
カンピドリオの士族長ほどではないものの、監獄とシャバを反復横跳びで出入りしているアルゴ隊の総長・イアソンは「毎日卓上の冒険を繰り返す奴らは、囚人でありながら冒険者なのさ」と評している。「かくゆうぼくも兼業冒険者でね」とニヤリと笑いもしているが、何の自慢にもならない発言であろう。
イアソンも監獄TRPG囚人歴が長く、監獄にブチ込まれると直ぐに他の囚人にGM役を務めるよう、求められる良GMとして人気を集めている。
実際に潜り抜けてきた冒険経験を活かしつつ、シナリオも頻繁に書いており、書いたシナリオを馴染みの出版商会の求めで出版している。
収監時代からイアソンの仕切りでTRPGを経験する事になり、現在も家族とよく興じているアルゴ隊のカストルとポルックスには「総長はさぁ……地味に人気書き手なんだから、下手に馬鹿商売せず書くのに注力してればいいのに」と言われる事があるほど人気のライターである。監獄限定シナリオもあり、手に入れようと必死になる愛好家すらいるほど。
ライター稼業を勧められても懲りず悪びれないイアソンは詐欺一歩手前から詐欺そのものの商売をして監獄とシャバを反復横跳びで行き来する生活を送っている。
ただ、アルゴ隊で拾った巨人の少年が初めて経験する事になる感謝祭にて「握手会で稼いだ金で豪遊するぞ!」と約束していたものの、監獄にブチ込まれた事で約束がパァになった事は気にしており、感謝祭終了の翌日に出所した際には会わす顔が無いのかビクビクしながら出てきている。
が、イアソンがそんな葛藤をしている事など露知らず、カストル達に付き添われ、イアソンを迎えに来た少年はニコニコ笑ってイアソンを抱っこし、感謝祭の宴で美味しかったものを詰め合わせた弁当を差し入れた。
イアソンはその対応に、気まずさを深めるのであった。
「その……あれだ……悪かったな!」
「??」
「感謝祭、一緒に遊ぶ約束だったろ? 約束やぶっちゃったからさ~……」
「ァー……?」
少年はイアソンが何を言っているか、よくわからなかった。
わからなかったので気にせず、こう言った。
「そうちょ……いづも、ありがぉ……」
「!? おっ、おま……おまえっ……!?」
少年の声は小声であったが、イアソンをびっくりさせるに十分なものだった。
驚き、目を白黒させる総長に対し、ポルックス達は「総長いない間に練習してたんだよ」と言い、してやったりと言いたげな顔で笑うのであった。