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家族


 カラティンの入団試験手伝いを終え、元少年騒乱者テテスと別れたヘラクレスは家路へとついた。途中、買い物をしながら。


「ただいまぁ」


「おう。帰ったか」


 クレスが家に帰ると、先に帰っていたイアソンが庭で焚き火を起こそうとしているところだった。クレスも荷物を置いた後、それを手伝った。


「アイツは無事、カラティンに入れたのか? わざわざ試験受けたんだろ?」


「うん。らくしょーだった」


「ほんとかぁ?」


「ほんとほんと」


 二人はしばし、焚き火の前で話をした。


 今日あった事。明日の事。もっと先の事や昔の事。


 他愛のない話をするのはいつもの事になっていた。家の庭で焚き火をしながら、となるとしばらくぶり――1年ぶりの事になるが、これは毎年の恒例行事だった。


「そうちょ、ちゃんと手紙かいた?」


「書いた書いた。書いてないと火ぃつけ始めてねーよ」


「なるほど」


 今日は弔魂祭の夜。


 死者宛の手紙を焚き火に投げ入れる光景がバッカス各地で見受けられる日。


 一人静かに手紙を送って想いを馳せる者。街中に置かれた篝火から手紙を送り、隣人達と膝突き合わせて昔を懐かしんだり、手紙だけ送って鼻をすすりながら足早にその場を去る者達の姿があった。


 クレスは家族三人で弔魂祭の夜を過ごそうとしていた。


「そうちょ、いつもぎりぎりまで書かないから……ちょとしんぱいだった」


「何書くか迷うんだよぉ。お前ほど筆まめじゃないし」


 イアソンは親友と愛犬だけではなく、何通かの手紙を用意していた。


 クレスも何通か用意していたものの、その中には一通だけでずっしりとした厚みのものもあった。もはや手紙と言うより本と言うのが正しいほどの厚みだった。


 冒険者として活動する傍ら、日記のように日々の事を綴った手紙で、送り先はもちろん自分の母親だった。生きているうちに伝えられなかった事を綴っていた。


「今回は何書いたんだ? ちょっと見せてみろよ」


「だ、だめ……」


 イアソンが手紙に手を出してくると、クレスは慌てて背中に隠した。


 特に母親宛の手紙が見られたくないらしく、首をぷるぷる振って見せるのを拒んだ。例年いつもなら気安く見せてくれる少年の様子をイアソンは訝しんだ。


「なんだなんだ! ぼくに見られたくないようなこと書いてんのか?」


「そうちょの悪口もかいてる」


「書いてんのかよ……!」


「そうちょ、いのちだいじに~ってお願いしてるのに、パパッと死んだりするかぁ。もうちょっとがっつ? をみせてほしい。がんばって」


「はいはい、わかりました。わかったから見せてみ?」


「やだっ」


「思春期か!」


 イアソンはニヤニヤ笑って飛び、手紙を追い回した。


 クレスは「だめだめ」と頑なに断り、二人はしばしじゃれ合った。


 じゃれ合っていたが、イアソンの頭がペチンと叩かれ止まる事になった。


 ただ、叩いたのはクレスではなかった。


「こら」


「イテッ」


「人が嫌がってるのを無理やり見ようとしない」


 イアソンの頭を叩いた魔女・メーデイアはイアソンを鷲掴みにし、イアソンは「ぐぇ~!」と苦しむふりをした。クレスは二人の様子を見て笑った。


「やじゃないよ。はずかしーだけ」


「じゃあ私は見ていいの?」


「んー……どうしよっかな……」


「何でぇ。何でぼくは見せないって即答したのに、メー相手だと迷うの」


「だって、そうちょに見せたら、ちゃかしそうだし……」


「やっぱ思春期だな!!」


 見ないうちから茶化し始めたイアソンが超高速でクレスの頭上を飛び回ったがメーデイアに撃墜され、地面に突き刺さって静かになった。


「さて、はじめましょうか」


「ん」


 こうして三人の弔魂祭が始まった。


 しんみりとはしつつも、別段、誰も泣く事は無かった。


 ただ昔を懐かしみつつ、クレスがその昔の話をねだり、イアソンが慣れた様子で語り、メーデイアが誇張された語りにツッコミを入れ訂正する何でも無い日常。


 その日常こそを尊び、それを守るためにも少年は冒険を続けていった。




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