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番外編TIPS:祭・行事編:感謝祭


 毎年11月末、3日に渡ってバッカス王国で行われている祭。親しい者で集まり、宴会を開きながら常日頃から感じている感謝を口にする祭。


 感謝している相手に直接感謝するのが良いとされているが、一人トイレに入って独り言として感謝しても良い。


 より多くの者に感謝するほど次の1年が幸多いものになると言い伝えられている。また、普段言ってない者に言うほどより幸多くなるとされており、商店や屋台の従業員が会計の際に礼を言われる光景がそこそこ見受けられる。


 迷信の類ではあるが、キチンと他者に感謝する事は良き人間関係を構築する将来への投資になるのは確かだろう。


 問題は毎年言ってるのに「今年は言い忘れた~」となると不仲になる事もある事だ。感謝祭でのうっかりが原因で離婚する夫婦もいるほどだ。


 奇祭ではなく、ごく普通の祭ではあるが、実のところ夏至祭と同じく民族間抗争問題に対するための政治的な意図で始まった祭である。現在もそういう意図は裏では存在している。他、宴会用の食品、酒類が大量に売れるため、バッカス経済界の商機としても使われている。


 感謝祭を口実に礼を言う恥ずかしさを軽減出来るとも言われており、信頼関係が死に直結する事もある冒険者業界ではパーティーやクランのメンバーで食卓を囲み、一人ずつ「今年の感謝」を口にしていくという事もよく行われている。


 バッカス最強の冒険者クラン・アルゴ隊はその手の労りとはほぼ無縁である。


 クランとしての武勇はずば抜けているものの、愚連隊という形容がよくあうほど個々人が好き勝手にしているためだ。チームプレイではなくスタンドプレーに重きが置かれており、全員が一堂に会する事そのものが稀。籍を置きながら数年に一度しか姿を表さないメンバーすらいる。


 総長であるイアソンがそもそもいい加減なゴブリンであり、遠征に出たはいいものの皆があっちこっちに好き勝手に出歩き、全員が単独行しながら魔物と出くわしたら適当に戦うという遠征とは言い難い遠征をする事すらある。


 それでもなおバッカス最強の座を欲しいままにしているのだが、元アルゴ隊所属の冒険者である異世界人エルフのテセウス、タルタロス士族のテラモーンなどはアルゴ隊の中でも比較的まともな神経をしており、何とか団体行動を心がけさせようとして苦心した。したが失敗した。前者は皆が好き勝手にするためキレにキレ続け、後者はそっと胃痛に苦しみ胃痛で死んで蘇生される事があったほど。


 そんなアルゴ隊が珍しく、図って一堂に会そうとしたのがある年の感謝祭であった。正確にはアルゴ隊に迎え入れられた言葉解さぬ巨人の少年が初めて参加する事になった感謝祭の時の事である。


 普段は自分の家族や恋人と感謝祭を楽しむ者も巨人の少年に配慮し、クランでの感謝祭宴会を企画し、それに便乗して「どんなヤツか見ておいてやろう」と普段は現れない者もやってくる事でアルゴ隊が集結する予定であった。


 拙いながらも、単語は少しずつ覚えてきた巨人の少年は、皆の会話の内容はよくわからず、首をひねりながらも宴会の準備に参加。何をしようとしているかはわからずとも、皆が楽しげなので楽しげに参加していった。


 少年は家庭を持っているクランメンバーの子供に「でけえ」「だっこしてぇ」とたかられた時はビックリして固まっていたが、しばらくすると懐いてきた同年代の子供達とおっかなびっくり遊び始めていった。


 その光景を見たアルゴ隊の面々の脳裏には、「コイツ、このまま冒険者やらせてていいのかなぁ……」「メチャクチャ強いけど、一応、まだまだ子供のはずだもんな……」という疑問が過ぎらずにはいられなかったのであった。


 ちなみにこの時、総長であるイアソンは監獄に収監中であった。


 罪状は「ぐふふ♪」と笑いながらバッカス冒険者業界で頭角を現しつつあった巨人の少年との「握手券」を販売し、一攫千金を目論み、「握手すると栄達間違いなし!」「握手すると強くなる!」「握手するだけで熟練冒険者になれる!」と購買を煽った誇大広告の罪である。


 獄中には触手責めされるイアソンの「んほおおおおおおおおお❤❤❤」という汚らしい嬌声が不健全に響いていたが、さすがに巨人の少年の耳までは届かないのであった。めでたしめでたし。



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