第8話「SNSマーケティング①」
「SNSマーケティング」
これが当社の新作だと言ったら、古臭いと貶すだろうか。ありきたりだと笑うだろうか。
だが、私は人財として、胸を張って言える。
これこそが、新卒採用に次ぐ、第2の"AIのEye"プロジェクトの柱になるのだと。
今時、どの会社もSNSの公式アカウントを作って宣伝活動を繰り広げている。ユーザーに合った広告を出している。今更当社の入る余地はないと言われるかもしれない。
だが、SNSに対する世間の反応は変わりつつある。
SNSサイトの広告収入で暴利を貪っている。それには飽き足らず、収集した個人データを他の企業に売り渡すことで更に儲けている。人を集めるだけ集めておいて、個人情報管理は杜撰で、大量流出を招いている。結果として、自分の情報を「利用されない権利」を個人が主張する流れが広まっている。
「あなたに合った広告を!」
SNSの各個人に合った広告を、AIが選定して表示させるようになって久しい。「スキーに行きたい」と呟けばスキー用品を勧められる。オタク系のアカウントをフォローすればソーシャルゲームの広告が表示される。挙句の果てには、結婚式場を検索すると、1年後見計らったようにベビー用品を勧めるまでに進歩したらしい。
確かにAI的には進歩と言えるのだろう。だが、本当にそうだろうか。適時・的確に広告を出すことが購買意欲に繋がるのだろうか?
何気なくネットサーフィンをしていて、ふとベビー用品の広告を見掛けた時に、実際に自分が妊娠していたとしよう。中にはタイミングが良いと感じ、購入しようと思う人が居るかもしれない。だが、「何故自分が妊娠していることが分かったのか?」と気味悪く感じる人も多いはずだ。
はっきり言って、AIは賢くなり過ぎたのだ。
人間の手の届かない領域まで成長してしまった。だが、それで人の心を掴めるかは別の話だ。人の思考を先読みできれば、囲碁や将棋で人間を凌駕することができる。しかし、人の思考を先読みした広告を出したとしても、気味悪がられるだけかもしれない。
AI無しでも広告に溢れた現代だ。人は広告の洪水に飽き飽きしている。「広告で認知度さえ高めれば売れる」という思考を切り替える時点に来ているのではないだろうか?
そこで私は提案したい。
商品を「売る」のではない。
「売れる」商品を生み出すのだと。
それはものづくりの原点で、何を今更、それが出来れば苦労しないと言われるかもしれない。だが、人間を遥かに凌駕する"AI"の力を借りれば、その実現に大きく近づく。それこそが、我々の提案する「SNSマーケティング」なのである。
仕組みは単純だ。
まずは自社製品の名前、画像、略称、特徴をAIシステムに登録する。
すると、AIが主要なSNS内を検索し、その製品に関する呟きや投稿を拾ってくる。
最初は「〇〇、美味しかった」と、直接的な表現しか拾えないが、AIが学習を進めることで、「ランチだよ!」という投稿に合わせて添付された画像に反応し、その直後の「美味しかった」という投稿まで合わせて拾うということも可能になる。
人力で行われる「エゴサ」の作業が、AIによるとより早く、より広く自社製品に関する投稿を集めることができる。例えば、朝食の代名詞こと納豆に関して、ダイエット中の女性が夜に食べているという情報を拾ったとする。これを一般向けに広げれば、「夜食向けの太りにくい食材」として納豆の販路を拡大できるかもしれない。
夜食向けの納豆を売り出して、実際に世間で「夜食に納豆っていいらしいよ!」という口コミが出回れば、「新作の納豆を発売したから、買ってください!」というウザい広告を出すよりも、遥かに手間なく、かつ効果的に売ることができる。
これが、「売る」のではなく、「売れる」ということなのだ。
大豆の話になったが、この「SNSマーケティング」を初めて売り込む相手こそが、かの「磯原食品工業」なのだ。
"AIのEye"プロジェクトの1号案件となった磯原食品工業に、今度は第2の柱を売り込もうとしている。これは社運を賭けたプレゼンになりそうだ。
当然、全力で臨むしかあるまい。