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人財コンサルティング株式会社  作者: ねへほもん
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第4話「人罪の章」

ここは墓場だ。

流刑地なんてものじゃない。

終われば復帰できる刑期なんてない、堕ちれば這い上がれない片道切符。


そう、俺は人罪A。

この墓場の、ただ1人の番人。

堕ちては消えてゆく者達を見送るうちに、俺だけが取り残されたようだ。


・・・って、しんみりした書き出しにしたけど、やっぱ合わねーな!

楽だし、誰にも気を遣わなくていいし、慣れりゃ居心地は悪くねぇ。

定時まで暇だから、人罪のお仕事(?)について語らせてくれよ!


人罪なんて普通ならねぇし、なっちゃいけねぇものだが、まとめるとこんなもんだ。

・取引先に迷惑を掛ける、上司と派手に喧嘩する等やらかした人間の行き先

・人在同様、与えられる仕事はなく、最低賃金で1日7時間定時

・但し、取引先文書等の機密文書については、紙面の保管スペースへの立ち入りやデータの保管場所へのアクセス権限が剥奪される

・人在から頻繁に転職先を紹介される


人在は仕事を「しなくても良い」役職だとしたら、人罪は仕事を「させてもらえない」役職だ。

とにかく会社にとってヤバい奴だから、機密情報には触れさせず、さっさと転職させてしまう。

そりゃあ、セクハラだの、機密情報の持ち出しだの、どうしようもないことをした奴も居るさ。


だが、これだけは言いたい。

人罪に堕ちた奴の大半は、「俺の意見を聞いてくれ!あんたのプランはここがおかしい!」そんな主張をぶつけて砕け散った連中なんだよ・・・

ただ真っ直ぐ過ぎただけ。危ういほどに真っ直ぐで、曲げる器用さを持ち合わせていなかっただけ。


犯罪者は法で裁けても、人罪は法で裁けない。


「出る杭は打たれる」「郷に入っては郷に従え」・・・魔女狩りの時代から続く同化圧力。どうしても人と同じことが出来ない俺にとって、コンサル業界は理想郷に思えた。

「ありきたりな題材に囚われず、最先端の価値を企業に届けよう!」個人の実力とアイデアで切り開く世界。ここなら俺でもやれる。そう信じていた。

だが現実は残酷で、待っていたのは結局、「無駄な長時間労働」と「上司へのおべっか」だった。資料作成を早く終わらせたら、「お前だけはもう帰るのか?」、刺激的なアイデアをぶつけたら、「何生意気にドヤ顔してんだよ?」

「ふん、お前ら全員見返してやるよ!」初のプレゼンに劇物を持ち込み、そして、沈んだ。


人罪に堕ちた俺は、しばらく堕落した生活を送っていた。

転職先ばっかり紹介されるもんだから、当然転職するつもりだった。

誰とも仲良くできなかったけど、最後くらいは声を掛けようか。忙しく働く同期に話しかけると、


「お前はいいよな~俺はこの作業が終わるまで、後3時間は帰れないよ。」


嘘だろ?

受験勉強で鍛えた処理力、大学で鍛えた思考力、趣味のブログ執筆とかで鍛えた文章力は、有名私大卒のエリートさんの実力を遥かに超えてしまっていたらしい。

データを分かりやすく整理し、分析し、文章にまとめるだけ。軽く30分で終わらせちまった俺に対して、


「お前やるじゃん。」


犯罪者は法で裁けても、人罪は法で裁けない。


「なぁ、また頼んでもいいか?」


裁けないなら・・・


「転職とかもったいね~こと言うなよ。金なら出す!」


裁けねぇならよぁ・・・


「上には黙ってやるから。お前が目指していた世界に、いつか這い上がれるかもしれないだろ?」


裁けないなら、居場所はあるんじゃねぇのか?


別に尊大になるつもりはない。

集団生活で群れを拡大してきた人間にとって、俺のような一匹狼はただの異端児でしかない。

いかに力を持っていようと、人との繋がりの中で発揮されなければ、ただ埋もれてゆくだけ。

それどころか、有り余る力は、発揮される場を求め、暴発し、そして身を滅ぼす。

誰も知らない場所で、ただ滅びゆくだけ・・・


だが、闇のどん底に居る俺に、何故か光が差してしまった。

闇があるから光は輝く。そういうことなのか?


分かってるって。

力を必要とされているだけで、俺という人間が必要とされている訳じゃない。

でも、力すら必要とされない奴らに比べたら、よっぽどマシなんじゃないか?


まだ、やれる。

人財レベルになれば、俺には無い発想力を持つ奴も、俺には無い経験や知識を持った奴も大勢居る。

ただ、権力に居座るだけの一部の人財と、それに寄り掛かろうとするゴミのような人材がクソに見えるだけだ。

「真のコンサル」って奴を見てみたいし、許されるなら関わってみたいだろ?


後、ただ真っ直ぐ生きようとする後輩が出てきたら、教えてやらないといけないからな。

「純粋すぎる素直さは諸刃の剣」だってことを。


結局転職はしなかったし、手伝いによる小遣い稼ぎの繋がりは、同期から後輩、後輩からその後輩へと紡がれていった。俺の居場所も広がっていった。

ほんの一部に過ぎないけど、俺は必要とされている。そんな簡単に消えてしまいそうな希望の灯火が、かろうじて命を長らえて、今もこの会社に灯っている。


おっと、また作業の依頼か。

なるほど。今この会社は、新たなビジネスの種を芽吹かせるために、とある大口案件に取り組もうとしているらしい。

「時代の最先端のコンサルへ」か。まぁ、この会社のお手並み拝見といきますか。


えっと取引先は・・・


「磯原食品工業」


その社名を目にした時、走馬灯のようにあの日の光景が浮かび上がってきた。

5年前の7月15日。

ひどい雷雨が降る日だった。

俺はあの日、人罪に堕ちた。


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