第1話「人財の章」
私は人財Aだ。
名乗るほどのことはあるまい。
この「人財コンサルティング株式会社」を支える存在として、「人財A」と呼ばれることはこの上ない喜びである。
月月火水木金金。
会社の繁栄を第一に考え、日々営業と新規事業の構想に明け暮れている。
趣味は会社見学とビジネス誌の購読。
無数のアンテナを張り巡らせながら、次のビジネスの種を探し続ける。
家では基本残務整理。運よく仕事が片付いていれば、無限の喜びに浸りながら勉強に勤しむ。
AI、IoT、仮想通貨・・・
私の探求心は無数の知識を追い求める。
プライベートが無いと言われることがある。
しかしどうだろう?コンサルティングこそ我が人生。そう思えれば、人生全てがプライベートと言えるのではないだろうか?
勿論休息も取る。
心身の充実なくして、万全のパフォーマンスは発揮できない。
疲れを見せたら負け。営業は一瞬一瞬が勝負なのだ。
取るべき最小限の睡眠時間を算出し、一秒の無駄もなく眠りに就く。
3時間しかない睡眠時間だからこそ、貴重な時間として、他の誰よりも大事にしている自信がある。
そういえば、コンサルティングの話をしていなかったな。
コンサルティングとは、他の会社に、「今までその会社に無かった価値」を提供する事業だ。
進むべき道を失った会社に戦略を授ける「戦略コンサル」、労働者が活力を失った会社が活力を取り戻す術を授ける「人事コンサル」、法律の陥穽から会社を守る「法務コンサル」は有名だろう。
しかし、コンサルティングの活躍領域はこれに留まらない。
コンサルティング、そしてこの会社には無限の可能性がある。
そう、私は信じている。
「仮想通貨は貨幣に代わる新たな決済手段になり得るか?」「個人の活動に留まりがちなYouTuberの宣伝力を企業活動に役立てられないか?」
社会が新たな流行を生む度、私の脳内では新たな疑問が生まれ続け、ある時ビジネスに繋がる。
ビジネスの種が実を結んだ時、私は最上の喜びを感じる。
また1つ、私が生を受けて以来の使命を果たせたぞ・・・と。
そんな希望に満ち溢れた「人財コンサルティング株式会社」だが、嬉しいことに年功序列の役職が存在しない。どんな若手であろうと、アイデアと創意工夫があれば、いきなりトップに上り詰めることができる。誰もが「人財」の称号を手にするチャンスを有しているのだ。
この会社に居る同志は皆、「人財」の称号を求める挑戦者である。そう信じた時代もあった。残念ながら事実ではなかったが、案ずることはない。
「2:8の法則」という法則をご存知だろうか?
上位2割が全体の8割の仕事をこなすという、昆虫界の働きアリに留まらず、人間界の労働市場にも広く伝わる法則である。
私たち「人財」が活力を失わぬ限り、「人財コンサルティング株式会社」の8割は安泰ということだ。
なんという安心感。
そう、「人財コンサルティング株式会社」は永久に不滅なのだ!