18 ケータイ番号聞きたかっただけなのに
現在、俺は右手にフォークを持ち、1人の少女の首に押し当てている。
(…あれ?こんなはずじゃ…。)
それは、ここにいる山本と佐々木も同じ事を思っているであろう。
俺等はホテルからずっと、彼女の後を追ってここまで来た。
追ってくうちに、恐ろしい男の方がいなくなったので
聞こうと思っていたのだが。
立て続けに赤信号に引っかかったり、人混みに邪魔されたりして
一向に近づけなかった。
そしてさっき、追付いたと言うのに、話し掛けた途端、松崎って言ったっけ?
ソイツが邪魔してきた。
ついカッとなって、俺は彼女を、お土産で買ったフォークで
ソイツが来ない様に脅している。
俺等はただ、彼女に携帯番号を、聞きに来ただけなのにな?
(さて、どうしよう…?)
俺は今まで生きてきた中で、1番重要な選択を迫られている気がした。
「…あの…相原さん……。」
蚊の羽音くらいに小さく、か細い声でケイちゃんは俺の名前を呼んだ。
ケイちゃんの顔は見えないのだが、小刻みに震えているのが分かる。
「…あ…。」
唯仲良くしたいだけなのに…。全く反対の事をしている事に気付いた。
本当に何してんだろ俺、彼女を脅かしたいんじゃないのに
俺は、咄嗟にしてしまった行為に罪悪感を覚え、手を緩める。
それを見計らったように、ケイちゃんは俺の腕からすり抜け
松崎の方へ走っていった。
逃がすつもりじゃなかったんだが、別に捕まえている必要もない。
本当何してたんだろと思いながら、フォークを握り締めた時
俺の意思とは関係なく、フォークが地面に叩き落とされた。
目には、フォークごと俺の右手を蹴り上げる中川の姿がうつされた。
俺は目を見開き、顔を上げる。
脳が中川の動きを理解する前に、俺は背中から地面に叩きつけられた。
あまりにも強く叩きつけられたので、肺の中から空気が抜け出す。
「…かっは……!!」
頭はフル活動しているというのに、体が痛くて動けない。
情報処理も間に合っていない。
無理に動こうとすると、背中の方から途轍もない激痛が襲ってきた。
俺は一動かせる首を動かし、山本の方を見る。
(え……)
空手部に入っている山本も既に、中川に倒され地面に蹲っていた。
佐々木は、中川の後ろにまわり背中から覆いかぶさろうと、飛び上がった。
中川はそれに気付き、姿勢を低くしながら、佐々木の胸ぐらと腕の袖を強く掴む。
そして、佐々木の勢いを利用して、綺麗に背負投を決めた。
俺等は地面に寝転がりながら、暫く空を眺めた。
こんな痛い目見るなら、昨日のうちに
携帯番号聞くのを諦めていればよかったなと、思いながら。