4 天気なのに雨が降る
4限目
皆が、手元にあるプリントに集中してるせいか
教室は紙の擦れる音と、筆記音しかしない。
私は眠気を消すために身体を伸ばす。
普段なら、木曜の4限は数学の時間だが
担当の赤池先生が
急遽出張になったらしい。
なのでこの時間は自習となり、プリントが3枚配付された。
だが、簡単な問題だったので、10分もしないうちに終わった。
(…今の時間なら読んでもいいかな?)
机の脇に掛かってる鞄から、手紙を取り出す。
(やっと手紙を読む事ができるな…)
今日は忙しくて、今までの読む機会がなかった。
ホームルームが終わって直ぐ、読もうと考えてたら
親友の紗百合が悩んでいたので、相談を受けた。
1限は現代文だった。
授業のペースが速いため、黒板に書かれる文字をノートに写すのだけに手一杯。
2限から3限まで移動教室。
…特に3限目は厄介な事に
体育で、休み時間でも、手紙を読める隙も無かった。
『白鷺洲先輩へ』
この可愛い丸文字に癒され、先程までの疲れが吹き飛ぶ。
良く考えたら年賀状以外で、私宛の手紙を貰うのは初めてだ。
封筒が破れないように、慎重に封を開ける。
そして、1文字1文字、大事に、噛み締めるように、手紙を読む。
手紙の内容は、とても可愛らしいものだった。
『白鷺洲先輩へ
いきなりお手紙すいません。私は1年生の苅部です。
松崎先輩と同じ部活に入ってます。』
私の親友、松崎 紗百合は女子バスケット部に所属している。
(やっぱり女の子からね…どれどれ)
『突然ですが、私には好きな人がいます。
なので、相談に乗って欲しいのです。』
(本当に突然だね。でも私小さい頃からソラ君一途で
恋愛の、相談に乗れる自信ないな…。)
『「ケイに相談すると、気分が楽になるわ~。」って
松崎先輩が良く言っていたので
私も相談に乗って欲しいと思い、手紙を書きました。』
(紗百合ったら…)
部活中に、後輩に私の事話したりもするのね。
何だか少し恥ずかしくも、褒められて嬉しくなった。
『迷惑じゃ無ければ良いのですが…。
明日放課後、音楽室で待ってます。
恥ずかしいので1人で来てください。
先輩と私だけの秘密にして欲しいです。お願いします。』
迷惑じゃ無いし、むしろ彼女が元気になるなら
こっちも真剣に話を聞こう。
そう思う。
彼女が本気なら尚更気が抜けないね。
「…ふぅ」
視線を手紙から天井へ向ける。
(放課後、音楽室で待ってます…か。)
時計を見るとお昼休みまで、まだ9分もあった。
気づいたら、半数くらいの人はプリントが終わったらしく
楽しそうに、仲良しな人同士でグループになり、話をしてる。
ソラ君も終わったらしく、私と目が合うと
こっちに歩いてきた。
「ケイもお疲れ。……で、手紙の内容は何だった?」
そう笑顔で尋ねて来た。
彼は、私が手紙を読んでいる事に気付いていた様だ。
「やっぱり女の子からだったよ。相談があるんだって。」
「え?そうだったんだ。…で、待ち合わせは?」
「えと…明日の放課後…お」
「…お?」
『恥ずかしいので、1人で来てください。
先輩と私だけの秘密にして欲しいです。お願いします。』
脳裏に、この言葉が浮かび上がる。
(危ない、いつもの癖で全部 言うところだった…。)
可愛い後輩ちゃんの約束を破ってしまう所だった…。
「えと…放課後お…お菓子を一緒に食べませんか?だって!」
自分でも、訳の分からない事を言った気がする。
お菓子以外にも、何かいい言葉があったんじゃないかな?私よ。
その言葉に、彼は私が嘘ついた事に気付いたみたい。
「はぁ?ちょっと手紙読ませて。」
ソラ君は、怪訝そうな表情を浮かべ手紙に触れる。
それに反射的に体が動き
「…っだ、だめっ!!」
手紙を掴み背中に隠す。
…彼は、そんな私を睨みつける。
私は慌てて理由を話す。
「この手紙は紗百合の後輩のカリ…じゃなくて
女の子からで、私に相談したいんだって。
恥しいから1人で来てって…。
だからソラ君でも、場所を教える訳にはいかないの。」
本当の事を話した。嘘じゃない。
ただ、言ってない事があるだけだもの。
「…それはダメだ。場所を教えて。俺も付いていく。」
理由を話しても、理解して貰えないようだ。
(そんなに私の事信じられないの?信用無いのかな私…)
そう考えたら、悲しみの他に怒りも覚えた。
「…ソラ君のバカ…。」
生徒達のお喋りで騒がしい中、彼には聞こえたようで
眉間にシワを寄せてる。
私は彼とは顔を合わせたくないので机で伏せる。
涙を手で拭う。
だけど涙は収まりそうにない。
私の意思を無視して涙は溢れ出る。
涙が完全に、目から零れそうになった時
時計の針が…学校のチャイムが…授業の終りを伝えた。
チャイムがなった同時に、私は荷物を持ち教室から出た。
…そして先生に仮病を使い、家に帰らせてもらった。
早帰りの私に、お母さんが心配する。
「大丈夫。寝れば治るよ。」と伝え、部屋にこもる。
小さい頃ソラ君に貰った、犬の人形を抱きしめ呟く。
「…ソラ君のバカ…。」
涙が零れると同時に、腕に力が少し入る。
これが彼と付き合って初めてした、ケンカでした。