3 午後から空は荒れ模様になるでしょう。
最近、本格的に俺達が付き合ってるという事が
知れ渡ったおかげか
あの日から2日間、ケイの下駄箱にラブレターが入ってない。
…なので自分でも思うが俺は今、かなり気分がいい。
鼻歌交じりにケイの隣で登校する
俺を見て、ケイは嬉しそうに微笑んだ。
久々に天気もいいし、昼休み飯食べながら
「放課後にデートに行こう」と、誘おうと思いつく。
楽しい事を考えてたら、もう学校に付いてしまった。
(もう少し、学校への道のりが遠くなれば良いのにな。)
なんて思いながら。
(取り敢えず、上履きに履き替えよう。)
そう考えて下駄箱を開ける。
すると3…いや5枚封筒が入ってた。
恐らくラブレターだろう。
…。前から思ってたが、とある女子と付き合ってるという噂が
流れてる間も手紙は途絶えるどころか寧ろ増え
彼女がいても関係なく送られるのは、変じゃないだろうか?
…人のものほど美味しそうに見える。なんてよく聞くが。
現に本当に彼女が居ても、ケイから彼女の座を手に入れるため
突き落とそうとアピールしてくる。
きっと、女の社会は弱肉強食なのに違いない。女子は怖いものだ。
(同じ女子でも、ケイは別だがな。)
ケイは逆に、その人の幸せを願ってしまう。
ケイは身を引くだろう。好きだからこそ…。
…俺にとっては最悪だったけどな。
俺の為なら、縁を切られかねない。本気で、そう感じた。
その点に比べ、男は人の物に手を出さない。
全男子の事を調べ尽くした訳じゃないので心当てなのだが
現にケイには、下駄箱に入って来ていた
ウザったい手紙は途絶えてる。
…まあ、手紙がまた入ってくるようだったら
ケイが気づく前に、俺が捨てるだけだけど。
多分今日も入ってないだろう。
そう軽い気持ちで、一応ケイの方を見る。
そして、ケイが白い紙を持っていることに気が付いた…。
(…な!)
油断していた。暫く見ないものだったから。
そして、ケイが彼女になったからと言う
浮ついた気持ちだったから、手紙の存在に気付けなかった。
ケイが手紙を手にしてしまった…!!
なんと不覚。さっきの男への信頼は無かった事にする。
(そうだ、男は獣だった。美味しそうな獲物を、容易く逃がすわけ無かった。)
顔が強張っている事さえ気づけぬほど動揺する。
(…どうすればいい、ケイに見られてしまった…どう対処すればいい)
手紙に気付いた俺を見たケイは
「この手紙がまだラブレターとは限らないよ。
可愛い文字だし、女の子からの相談かもしれないね。」
なんて意味の分からない事を言い、微笑む。
そして、あろう事か嬉しそうに手紙をカバンにしまいやがった。
(…はあぁ?可愛い女子?)
そんな事はないだろう。
今まで、ケイに届いた手紙を勝手に読んで捨ててきたが
女子からの手紙や、相談なんて可愛い内容のものなど1通もなかった。
…どうせ今回も、欲にまみれた男子からだろう。
(…もしラブレターだったら彼女はどんな行動に動くのだろうか。)
不安と混乱していた頭の中から、転がり落ちた1つの疑問。
「もしラブレターだったら、どうするんだ」
自分でも驚いた。
思ったことが言葉となってしまった。
聞くつもりじゃなかった。少しいつもより低い声で出てしまった言葉。
気持ちが沈んでいくのが分かる。
(…俺がヤキモチなんて、カッコ悪いよな…。)
こんな俺は、ケイには見せたくなかった。
幻滅させただろうか…?
不安になりながら、俺はケイをジッと見つめる。
ケイはその言葉に一切不快な顔をせず
寧ろ嬉しそうに笑った。
「私が好きなのは、ソラ君だけだって伝えるだけだよ♪」
ケイの予想外の反応に戸惑い、目も合わせられなくなった。
一切迷いのない真っ直ぐな笑顔に、戸惑いが隠せない
心臓が鳴り響く。徐々に体が熱くなるのが感じられる。
(前から思っていたが、どんだけ俺のことが好きなんだよ。)
「ほら、早く行こうホームルーム始まっちゃう。」
そう言ってケイは、動けなくなってた俺の手を引く。
そうだった。
今 学校だった。ホームルームまだだったけ。
ふと違和感を感じ足を見る。
すると足には、まだ履きなれた靴が…。
「うわっ、まって、まだ俺履いてないから。」
「あ、本当だ…ふふっ」
ダメなところを、ケイに見られて羞恥を覚える。
「何笑ってんだよ。さっきまで怒っていたから仕方ないだろ」
「私もいつもソラ君の持っているものに嫉妬してるよ。だからお相子あいこ」
(…何言てるんだか、俺はお前の何倍も嫉妬してんだぞ。)
…なんて思ったが心にしまう。
これ以上恥ずかしい所を見せたくないからだ。
訪れる事のない想像だが
…もしケイが俺以外の奴を好きになり、俺から離れようとしたら
ケイが何を言おうとも、ケイが俺を嫌おうとも
ケイを皆から隠してしまおう。
そして、誰にも邪魔されない場所に閉じ込めて、彼女を愛し続けよう。
彼女がたとえ死んでも俺は…。