1 広いオトコになる(仮)
6月18日(月)
昼休みの曇り空の下、俺等4人は屋上にいた。
目の前で中川とケイが楽しそうに話をしている。
「お前、なんか心広くなったね」
仲良く食べている所を微笑ましく眺めている俺に
松崎が耳打ちをしてきた。
「あぁ、少し反省してな。」
「だから今日はガード緩いんだね。
ケイの周りに男群がってて驚いたよ。あははっ」
そう言って松崎は、俺から目をそらしケイの方を見る。
俺は一昨日の事を思い出し苦笑いする。
「俺はケイのために、広いオトコに変わるんだ。」
「ふ~ん?…ってケイのそれ美味しそう頂戴!!」
俺は、相変わらず自分勝手な女だなと思い、大きな溜息を吐く。
ケイは「いいよ~」と言って卵焼きを箸で取り、松崎の口に入れた。
美味しそうに食べている松崎を、固まりながら見ていると
「なにみてんだよ」と、睨んできやがった。
(ばっ…お前!俺された事ないんだけど!!
何平然としてもらっているワケ!?)
爪を噛みながら、恨めしそうに松崎を見続けていると
松崎がケイに耳打ちした。
それに、ケイは楽しそうに微笑んでから
「ソラ君はタコさんウインナーが好きでしたよね。」
「はい、あーん」とケイはウインナーを箸で掴み
俺の口元に持ってくる。
(…なんか複雑。)
嬉しいんだけど、松崎のおかげと考えるとムカつく。
しかも、ニヤニヤ笑う松崎と、その行為に中川が「きゃー」と
恥ずかしがっているせいで気が散り
嬉しいような、ムカつくような。
うん。まぁ、ケイが少し赤くなって可愛いから良しとしよう。
そう思い、素直にウインナー食べながら御礼を言った。
うん。美味い。
「そう言えば今日のロングホームルームは、2週間後の修学旅行の班決めだっけ?」
「楽しみだねぇ」と呑気に行ってる中川に
ケイは「そうだね♪」と、嬉しそうに相槌をする。
俺と松崎は、すっかり忘れていた存在を思い出し声を潜める。
「…おい、マジか?その情報」
「ケイも知ってるっぽいしマジかも…
スマホしてて聞いていなかったわ。」
俺と松崎は目を見つめ合い、互いの心が始めて合致した事を感じ、手を組んだ。
ケイと中川は、そんな俺等を不思議そうに首を傾げて見た。
松崎とは何も喋らず、目で語りかける。
(ケイを、変な男の班に組ます訳には行かない。分かってるか?)
(えぇ。私とケイで組み、お前は中川と組む。)
(あぁ、幸いうちの学校は男女4人で組まなきゃいけない。
人数では丁度いい。)
(後は組むタイミングね…今日お前が男子に気を許したから
男子達もケイに誘いやすくなっているし…。)
((…作戦成功を祈る。))
俺等は何事もなかった様に手を離し、弁当を食べだす。
広い男になるのは、明日からの方が良かったな。
そう少し後悔しながら、俺達の戦いが始まったのだった。
ソラ君が紗百合と手を組んでいる中
私と中川くんは、仲良くお弁当を食べていた。
「ねぇ、僕にもあーんして?」
「いいですよ?はい、あーん。」
卵焼きを箸で掴んで、中川くんの口の中に入れる。
中川くんは卵焼きを物凄く美味しそうに食べたので
(作りがいあるなぁ。)
私は、そう思ったのであった。




