14 より確かな安心を手に入れるために
「ケイ…。」
そう言って、正面からベットに座るケイを抱きしめる。
ケイも俺に合わせて、何時もの様に腰に腕を回してきた。
俺は右手に持つ牛刀を、ケイの背中に突き立てる。
人間の心臓というのは左側にあるもので、ケイを左腕で優しく固定し
包丁を横にして、肋骨の間に勢い良く差し込む。
そうすれば、真っ直ぐ心臓を斬る事が出来るし、上手くいけば即死。
「愛してるよ…これからもずっと…ずっと…」
そう言ってケイの最後の言葉を待つ。
最後に、愛おしい彼女の声が聞きたくなった。
(だって…ねぇ?
もう喋れなくなっちゃうんだし、最後の言葉が「美味しかった」なんて
品が無いじゃん?
あぁ愛しいケイ…。
ケイがいなきゃ生きていけないのに、愛しすぎて殺しちゃう俺。
何かコレ矛盾してるよね?あははっ!!
でも仕方ないよね。だって君は周りから愛されすぎた。
俺以外の生き物に、愛されすぎた。
もう…俺だけの物になっちゃっても良いよね?
だって……もう我慢できない。
…これでもかなり我慢出来たほうだよ?
むしろ褒めて欲しいね…だから…ご褒美としてケイを
…俺に頂戴?)
「…ソラ君顔見して。」
俺はケイの言葉に、ちょうどいいかも知れないと思った。
最後の生き顔を目に焼き付けようか。
そう考え、言われた通りににする。
ケイは俺の顔を、潤んだ瞳で見つめている。
顔を紅潮させていた。
口元は笑ってはいなかった。
俺は思いがけないケイの表情に驚き俯く。
「ソラ君…。どうしてそんなに苦しそうなの?」
ケイは悲しそうな声で俺に優しく話しかける。
俯いたまま、俺は何も言えず唇を噛む。
(言ったら嫌われるじゃないか
本当はもう俺の見ていない所で、とっくに嫌われている予定だったのに。
監禁したとき心構えたはずなのに。
いざ、目の前で駄目な自分を見せて、嫌われるなんて。
嫌われたら…大袈裟かもしれないが、もう生きてる価値がない。)
と、今まで経験した事のないほどの、緊張感が俺に襲いかかっていた。
「ソラ君…何も言って貰えないと私、力になれないよ…。
お願い…私にソラ君を教えて?」
と、泣きながら言うケイの声を聞いて、心に激痛が走る。
(ケイに笑っていて欲しいのに…俺の我儘で…でも俺は…!!)
俺はケイの涙を左手で優しく拭い、強く抱きしめた。
俺はただ彼女の笑顔を守りたかっただけなのに。
でも俺は自分のために彼女に嫌われたくない。
俺は本当に我儘な男で…自分でも嫌気が差す。
申し訳ないと思いながらも、ケイなら本当の俺を見てくれるんじゃないかと
ケイの優しさに甘えてしまう。
今回も何時もみたいに優しく微笑んでくれるんじゃないかと
甘い妄想をしてしまう。
でも、もし俺の事を嫌いになってしまったなら…。
考えただけで吐きそうになった。
「本当の俺を知っても、ケイは俺の事嫌いにならない?」
そう聞いた俺は、恐る恐るケイの表情を確認した。
より確かな安心感を手に入れるために。




