8 静かな家に独り
家の鍵を開け、俺は静まり返った家の中に入る。
「ただいま…と言っても誰もいないか…。」
ここが一般家庭ならば、土曜日くらい家族が揃っていても変じゃない。
しかし俺の父と母は、毎日仕事が忙しく家に帰ってきやしない。
家族仲が別に悪いわけじゃない。
あと、俺は別に不満じゃない。慣れたから。
玄関の鍵をしめて、冷たい廊下を歩く。
そのまま真っ直ぐ、自分の部屋に向かった。
俺以外誰もいない静かな廊下。
俺の足音以外聞こえない静かな家。
こうなったのは約3年前。
それから1度も親は家に帰ってきていない。
俺が1人でも、家事全般こなせる様になったから2人は安心して仕事をしている。
家事が出来なかった頃は、かなり無理して通勤していたから
俺的にも良かったと思っている。
電話も毎日19:00にしてくるし、クリスマスプレゼントも毎年、宅配便で届く。
学費も家賃も払われているし、通帳に毎月お小遣い、食費が入る。
何不自由なく俺は生かされている。
小遣い貰っても、食費を沢山貰っているから物凄く余るし…。
自分の部屋に入り、パソコンの電源を入れる。
パスワードを入力してインターネットに接続する。
You○ubeを検索し、お気に入りの曲をマウスでクリックする。
静かな部屋に俺以外の音が響く。
その時スマホから着信音がながれだした。
確認すると中川からだった。
俺はスマホ片手に、本棚の方へ足を進める。
「どうした?中川」
「どうしたじゃないよ!置いて行くなんて酷いよ相野谷くん!!」
胸辺りぐらいの高さの本棚の上には、写真立てが1つ置かれている。
入学式に撮った、笑顔を浮かべるケイの写真が飾られていた。
目頭が熱くなり目を逸らす。
「あ…あぁ、ちょっと用事思い出して…ゴメン。」
「おかげで迷子になったよ。…まぁいいけど。
元気無いようだけど…大丈夫?」
腐っても鯛…天然でも親友か。
俺が何も言わずにいると、スマホの方から溜息の音が聞こえてきた。
「馬鹿な事するんじゃないよ?…ほら、鼻で牛乳飲むとか!
あれ結構痛いんだよ~。僕の場合は君が笑わしたせいで鼻から出たけど。」
「ぷっ…お前じゃないからそんな事しねぇよ」
「ふふっ…じゃあ、またね。」
部屋に静けさが戻る。いつの間にか流していた曲が終わっていたようだ。
薄暗い静かな部屋に俺は1人。写真立ての前で立っていた。
「…ケイ……。」




