1 彼等(かれら)を乗せる列車は走る獅子のごとく
5月30日(水)
…放課後
他の生徒なら、部活が終わり下校をする時間。
5人の男子生徒が1つの教室に集まっていた。
室名札には『家庭科室』と書かれているこの部屋だが
数年前に、新しい家庭科室が建設されて以降
使われなくなったので空き教室として扱われていた。
鍵も壊れているので、いつでも出入りができる。
秘密会議には絶好の場所。
皆は使われなくなったコンロで、隠れる様に床に座った。
秘密基地みたいで心浮き立つものだが、皆表情が暗かった。
…1人を除いては…。
「おい、お前ら…これで良いのか?」
初めに口を開いたのは、その一人 櫛田 佳祐
このチームのリーダーである。
現在2年生で、サッカー部に所属している。
その中でも、トップの実力を誇っている。
いつも髪の毛を、ライオンの鬣の様に立てているため
皆からは、よく櫛田獅子と呼ばれている男だ。
櫛田の言葉に反応し、同級生の 田中 秀から弱々しい声が帰ってきた。
「どうしようもないよ…皆見た?あの幸せそうな笑顔…」
田中の言葉に続いて1年の 山本 純士が吐き出すように言った。
「最近元気なさそうだったけど…元気になってよかったですね…」
他の2人はうなだれて返事が返ってこない。生きた屍のようだ。
「これはダメだ」と、小さく呟いてから
「…今日は解散としよう。明日も必ず来いよ」
櫛田は溜息を吐き捨てながら言葉を吐き捨てた。
その言葉を合図に、皆は流れるように家庭科室を出ていく。
仲間が夕日の中に消えていった頃、櫛田は2年3組の教室前に立っていた。
「ケイちゃん…。」
俺等にとって、彼女は天使のような存在。
悲しい事に、彼女は手が届かない存在だった。
告白しようにも、下駄箱に入れた手紙は
奴に捨てられ無残な姿になってしまうし。
話しかけようにも、奴が邪魔を入てくるし。
最後は奴に取られるわで…釈然としない。
彼女が1人になるのはトイレの時くらいだった…。
…が、流石にトイレにまで入るわけにはいかない。
入ったら告白の前に何か終わりそうだったし。
変態はゴメンだ。紳士でいよう。
だが本当にこれでいいのか?
ずっと一途に思いを寄せていたというのに奴に邪魔され続けた。
櫛田は腕組をして、奴の事を思い出す。
2年3組 相野谷 爽蘭
我らの天使、白鷺洲 繼ちゃんの前に降り立った悪魔
いや、奴はキチガイに違いない。そうに決まっている。
そんな奴にケイちゃんが、汚されるならいっその事
邪魔してやる…。奪ってやる…!
アイツに負け続けるなんて嫌だ。勝ってやる…。
どんな手を使ってでも!
嫉妬という歪んだ心から、謎の闘争心が湧き出した。
櫛田は、エナメルバックからスマホを取り出し
ついさっき思いついた、仇討ち計画を仲間に伝える。
櫛田っ子:…という感じでやつをギャフンと言わせる。どうだ皆?
カリッとベーコン:いいじゃん!白鷺洲さんには悪いけど、いい思い出になりそう
意外にも初めに返信してきたのは、さっきまで生きた屍だった
同級生の苅部 珠己だった。
櫛田っ子:だろ?他の皆はどうだ
秋椿:先輩。俺は降りさせてもらいます。
櫛田っ子:負けたままでいいのか?
秋椿:天使が届かなくなった今、俺はもう動けません
…もう死んでるようなものですので。
「そうか…斎藤…。お前、一番頑張ってたもんな…。」
1年生の斎藤 華楓 女みたいな名前だが列記とした男だ。
ちゃんとアソコが付いてる。
所属は美術部で内気な性格。昔から絵に没頭していたせいか
おかげで体格は女みたいに華奢。
彼女に恋してから、彼女の机や下駄箱にラブレターを送り続けていた。
無理だと知っても、諦めず約1ヶ月間…。
忍耐力のある男だった。
俺が初めて男として認めた後輩だった。
…だが、彼女に彼氏ができたと聞いた瞬間
学校には来るが、生きた屍と化した1人である。
田中だよw:俺もやる(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっ
田中だよw:次は負ける気がしないなww
田中だよw:獅子オマエ天才だわ(*´з`*)〜♪www
夏はアツシ:櫛田獅子先輩、俺も参加します!
櫛田っ子:おっしゃ、じゃまた22時に作戦会議としますか。
「よっしゃ…。」
スマホを片手に櫛田は思わずガッツポーズを作る。
スマホの中から、皆の高ぶりが久しぶりに感じられた。
思い立ったが吉日とも言うが、これは彼等にとって不幸の始まりだった。
斎藤1人を置いて、不幸の列車が走り出した。
3年 櫛田 佳祐→櫛田っ子
3年 田中 秀 →田中だよw
1年 山本 純士→夏はアツシ
3年 苅部 珠己→カリッとベーコン
1年 斎藤 華楓→秋椿