3 昔とは違う私達
私の腕を掴んだまま、ソラ君は私と向き合い
真っ直ぐ、教室を出る時と同じ表情で、私の目を見つめる。
「彼女いないよ。好きな人としか付き合うないし。」
直球だった。唐突過ぎて、ソラ君の言葉が理解できない。
「えっ?」
思わず声が漏れる。
彼は、上手く理解できなくて落ち着かない私の心を
見透かしたように優しく微笑えんだ。
私の体を自分の方に寄せ強く抱きしめる。
それにより、私は更に混乱が収まらない。
「…初めて出会った時から…俺が好きなのはケイだけだよ…。」
耳元で優しく呟いた。
それは、泣き止まない子供を宥める様な、優しい声だった。
「だから、もう俺を避けたりしないで…。」
さっきのとは違う、苦しくて今にも泣きそうな声が
耳から心に吸い込まれるように入ってきた。
私を抱きしめる腕が、震えているのが分かる。
この時も混乱していた私はやっと
ソラ君を傷つけてしまった事に気がついた。
「ソラ君…!ごめ…ごめんね…!!」
考えるより早く、口から謝罪の言葉が出た。
封印したはずの想いが溢れ出す。
それを表すように、目から暖かい涙がこぼれ出した。
「ソラ君…わた…わたしもね…」
色んな感情が心から溢れ出し、上手に言葉で表す事ができない。
それに戸惑い、慌てる私を
彼は優しく微笑みながら、言葉の続きを待つ。
「…貴方が好きです。ソラ君」
ずっと昔から隠してきた気持ち。封印したはずの思い。
心から溢れた思いは、今やっと言葉となって零れた。
すると彼は、今まで見た中で1番の笑顔を見せ
「その言葉ずっと待ってた!」
私を抱きしめてる腕の力を強めた。
小さい頃は、嫌なら無理やり振り払う事が出来ただろう。
しかし、もう出来そうにない。
(もう昔とは違うのね…。)
嬉しくて目から溢れる涙は、止まりそうにない。
私も腰に腕を回し、力強く抱きしめ返す。
「今日から僕の彼女になってください。」
「僕って感じじゃないよ…ふふっ。ソラ君は…もう子供じゃないんだね。」
「何言ってんだ?今16歳だよ?2年後には結婚できる年だからな。」
彼は頬を少し膨らまてから また笑った。
私は、いつも通りの反応に少し安心する。
混乱していた気持ちが、やっと落ち着いてきた様だ。
今なら未来永劫後悔しない答えが出せる気がする。
「…ソラ君」
「なんだ?ケイ」
今から言う言葉が恥ずかしくて顔が熱くなる。
恥ずかしくて目も合わせられない。
だから目を少し下に逸らしながら
「喜んで…。」
言葉足らずな返事だった気がして、すごく不安になったが
彼にはしっかり伝わったみたい。
「ケイ好きだよ…。」
そう言って彼は優しい笑みを浮かべる。
私も彼に惹かれ微笑む。
「今お昼休みだし、お昼いっしょに食べようか。」
「うん!」
手を繋ぎながら階段を下り、お弁当を取りに教室に戻った。
…その日から、あの嘘の噂は消え
『ケイとソラが付き合っている。』
と言う真実の話で、校内持ち切りになったのでした。