9 カラオケ後編
俺が37曲歌い終わった頃
獅子は、パフェを食い終わり
帰る支度をしていた。
「えっ!何帰ろうとしてんだよ獅子!!夜はこれからだぜ!?」
俺は歌うのを中断し、帰ろうとする獅子を止めようとする。
しかし獅子は俺を見て、溜息を吐くだけで
バックに荷物を入れる手を止めない。
俺の右手にはマイク、左手にはマラカスとタンバリンを装備している。
どこをどう見ても、カラオケを楽しんでいる様な姿だが
別に歌うのだけが目的でない事を、分かってほしい。
今日の目的は
①苅部の事故
②山本音信不通
③言ってなかったこと
を獅子に質問したり聞いてもらう事だ。
田中は机に、持っていた物を置き櫛田のバックを掴む。
「待って待て、歌っていたのは獅子に感謝を伝えたくて…。
だけど、今から本題に入るから帰らないで!」
俺はマジな顔で獅子の目を見ながら、呼び止めた。
さっきまで巫山戯ていた田中の顔が
真剣な表情に変わり、驚き足を止めた。
普段なら目を合わせる事がない田中が珍しい。
俺は、田中の言いたい事に徒ならない気配を感じ
黒いソファーに座りなおし、話を聞く事にした。
田中の話す内容は、苅部を殺したのは実は
相野谷なのではないかと言う事。
それと9月1日のあの日何を仕出かしたのか。
そして何があったか…だ。
(そんな…何て事だ…。)
苅部は事故だと思っていた。
相野谷は、悪魔のように何事も冷酷で容赦はしないが
ケイちゃんに関わること以外は全く興味がなく
必要以上に手を出してくる事はない。
つまり今回の計画の通りに進んでいれば
直接話しをする俺以外は痛い目に合う事はない…はずだった。
田中が言ったことが本当ならば
苅部が事故に見せかけ殺された可能性が、0%じゃなくなった。
寧ろ俺等全員、殺される可能性が0%じゃなくなった。
俺は殺されるのではないかとの焦りと
なぜ約束を守れなかったのかと、怒りが込み上げてきて
田中の襟を掴み睨み付ける。
顔を近くで見たため、田中の目が腫れている事に気づいた。
田中は1人で何度も考え後悔し、自分を何度も追い詰めたのだろう。
「だって我慢できないよ…俺等がずっと追いかけていた人が
やっと手の届くところに来たんだよ?」
力なく言い訳をし、目をそらす田中を見て
何も言えなくなり、掴んだ襟を離す。
「…俺も悪かった。俺が言い出さなければ
こんな事にならなかった。」
(相野谷に捕まらず…いや、計画が甘すぎたんだ。
一筋縄ではいかない事知っていたのに…。
解放された後、家に帰らず真っ直ぐ山本の家に行けていれば…)
俺は皆への罪悪感と、自分の行いの愚かさに潰されそうになる。
一刻も早く1人になりたくて、エナメルバッグを肩にかけ
田中を背に、ドアに手をかける。
「悪い…獅子。あの時、苅部を止められれば…
いや、また公園に行っていれば、こんな事には成らなかったかも」
「過ぎた事は仕方ない。
今出来る事は、殺されない様に気を付けるだけだ。
もし、本当に苅部が他殺ならば俺等も殺される。
…いつでも電話して良いから、今日は解散だ。」
そう言い残して
振り返ることなく、俺はその場から立ち去った。
田中を1人残して…。




