★ 5 夕ラッシュ 苅部
6月7日 木曜日
夕ラッシュで騒がしい駅の中、苅部は帰りの電車を待っていた。
(風邪じゃ仕方ないか…)
昨日から、山本と連絡が付かなかった。
山本の担任教員に聞いたら、風邪で休んでいると
親から連絡があったそうだ。
『まもなく9番乗り場に、18時45分 新快速**方面 ○○行きが
10両で参ります。危ないですから 黄色い点字ブロックまでお下がり下さい。』
列車の到着を伝えるアナウンスが流れた。
明日、皆でお見舞いにでも行こうと考え
スマホで櫛田に連絡しながら、黄色い点字ブロックの方へ歩く。
昨日と今日で、濡れて滑りやすい足場。
スマホで散った注意力。
沢山の人に囲まれ電車を待つ苅部。
減速しながらも勢いよく走る電車。
苅部は後ろの人にぶつかり、よろけた。
それに驚いて、手元からスマホが中へ舞う。
それを掴もうと足を1歩踏み出した。
すると、足が滑って体が中へ舞った。
「…え…?」
気づくと苅部は、線路の上で寝転んでいた。
急いで体を起こし、周りを見渡す。
苅部を見下ろしている人々は皆、驚いていた。
ベースボールキャップを被っている1人を除いては。
(相野谷!?…なぜここに…)
相野谷は、口の端を歪めながら、苅部を見下ろしていた。
けたましいブレーキ音が鳴り響く中
苅部に何かを言って、人に紛れて消えていった。
「きゃあぁぁぁぁ!人が!人が!!」
と、甲高い女性の叫び声が聞こえた。
それを聞きつけ、好奇心で群がる
野次馬の中に隠れながら
帽子を脱ぎ、鞄にしまう。
そして、何事もなかったように改札口から出た。
「あと、2人…。」
相野谷は、邪魔者が消えていく喜びと
一仕事やり遂げたことによる、優越感で満たされていた。
(おっと…いけない…。)
思わずにやけてしまう口を、手で覆い隠しながら
愛しいケイの元へ、急いで向かうのであった。




