9 田中君と初めてお話
(…もう、ソラ君は帰ったんじゃないかな?)
ベットの上にある目覚まし時計に、目を向ける。
迂闊に家から出ると、ばったり彼に
会ってしまう可能性が高い。
こういう時、家が隣と言うのは不便である。
カラスがお家に帰る頃、私はこっそり家を出た。
誰にもバレぬよう学校に入り、音楽室へ向かう。
まるで自分がスパイになった気分だ。
(待っててね、可愛い後輩ちゃん♪)
放課後の学校は、昼間とは雰囲気が違う。
昼間がかき氷のブルーハワイなら、放課後はオレンジジュースの様だ。
暗い廊下を忍び足で、でも少し早足で音楽室へ向かった。
音楽室の扉を開く。
誰も居ない。
まだ来ていないようだ…。
…それか、私が来るの遅くて帰ってしまったか…。
取り敢えず、暫く待つ事にする。
…黒板から斜め右上を見ると、掛け時計が
5:20を現していた。
(…流石に、もう帰っちゃったよね…。)
もう帰ろうと、椅子から立ち上がった時
勢い良く扉が開いた。
そこに立っていたのは…。
同じクラスの 田中 秀君だった。
「あれ…?田中君、音楽室に何か用あるの?」
「あぁ…苅部に、遅くなるから
白鷺洲先輩にコレを渡してって言われたから…。」
そう言って、田中は缶コーラを2本取り出す。
「一緒に飲んでもいい?」
「あ…えと…。」
戸惑うケイの様子を無視して、田中は歩み寄る。
怪しい笑みを浮かべながら…。




