8 紗百合と美紀
ベランダから海を眺めながら、僕は人を待っていた。
心地良い波の音が、ここまで聞こえてくる。
背中の方で、ゆっくりと掃き出し窓を開ける音がした。
僕は、音の方に振り返る。
短い髪を、右手で耳にかきあげながら、松崎さんはやって来た。
「…なっ…何?話って…。」
松崎さんは、何やら落ち着かない様子で
僕に話しかけてきた。
月の光を浴びて、白く反射する肌に、僕の心は揺れ動く。
白鷺洲さんや相野谷くんに見せる元気なところも
今の様に、御淑やかなところも
僕は、何故か心を動かされた。
愛おしいと思った。
挙句に僕は、憲志さんと話をしてるのを見ただけで
嫉妬してしまったのだ。
そして今、松崎さんが来てくれただけで
こんなにも喜んでしまう僕がいる。
(…あぁ、やっぱり…。)
僕は1人で確信し、松崎さんを真っ直ぐ見つめ
気持ちを言葉にした。
「松崎さん、好きです。僕の彼女になって下さい。」
その言葉に、私の頭はフル回転しだした。
逆に、体は動きを止めて、その場で固まっていた。
(これは夢?…私が作り出した都合の良い幻?)
寝ていたのを、ケイに起こされたのは約6分前。
ベランダで、中川が私を呼んでいると聞いて来た。
(これはどう考えても告白だよね?)
しかし、私はこれを信じる事が出来なかった。
これは全て夢の続きかもしれない…と思ったから。
(だったら、夢…覚めないで欲しいな。)
両思いだと言う喜びより、夢だったら悲しいと言う気持ちが
涙となって、瞳から流れ落ちる。
普段は生意気に振舞っているが、不思議な事に
好きな人に対しては、嫌われたくないと不安が募るばかりだ。
「私も…。中川の事が、修学旅行の時からずっと好きだ!」
私は涙を零しながら、無邪気な笑顔を浮かべ、素直に言葉にした。
そんな私の顔を見て、中川は両手で顔を隠しながら座り込んだ。
(…何か変なことを言っただろうか。
もう少し、可愛らしい感じで言った方が良かったのだろうか。)
そう思い焦っている中、中川は俯きながら私に尋ねる。
「松崎さん…これから紗百合って呼んで良い?
僕の事は、美紀って呼んで欲しいです。」
「え…?良いけど?」
その言葉を聞いて、中川は体を大きく震わせ
両手を上に伸ばしながら立ち上がった。
そうして、私を強く抱きしめる。
いきなりの行動に私は驚いた。
しかし、向日葵の様に明るい笑を見て
私も微笑んだ。
「よろしくね。紗百合♪」
「うん。よろしく中…美紀。」
そう言いあった後、中川は
「来てくれて有難う紗百合。
そして…お休みなさい」
そう言って私の顔に優しく手を当て、顔を近付ける。
そして、優しい声で
「…いい夢を。」
そう言って頬に唇を当て、嬉しそうに
部屋に戻っていった。
私は、美紀のせいで熱くなった顔を、両手で触れながら
その場に座り込む。
うるさい心音を感じながら、心地の良い夜風を感じながら
これは現実だと理解したのであった。




