麺王ワルディー
〈どうだ? 学生生活は。心躍る感じかい?〉
エヌゼットの穏やかな声が夜に重なる。
俺は携帯を持つ方とは逆の手でグッとコブシを握り、少年漫画の主人公を気取ってみた。
「もう毎日が冒険さ!」
〈──初日じゃん〉
俺の乾いたガッツに流水の如く、穏やかにツッコむんじゃないよ。
エヌゼットは小さく笑うと、ちょっと優しい声を出してきた。
〈……カタリ、リュウシロウ──か。ふふ、なんだか侍っぽいね。その名も悪くないよ〉
「……そりゃどーも」
適当な返答をしながら俺はワルディーお手製のナポリタンをフォークで巻き、口に入れる。
──あら。少し冷めちまったが、いいお味よコレ。
〈いいなあ。いいなあ。アタシにも一口くれよぉ~〉
かわいらしい声を頑張って作っているエヌゼット。似合わん。
「貴様にはこの謎の供物が捧げられただろうが。コチラをお召し上がりください」
〈アタシにじゃなくてオマエの為に作ってくれたんだろ~。奥ゆかしいワルディーだよ。かわいいだろ? ……ていうか何これ?〉
ロウソク刺さったメロンパンだよ。
本日のメインディッシュ、『海鮮風メロンパンにロウソクを刺して』だよ。
まあそんな感じで、エヌゼットもドコからか知らんが、視覚とは別に世界を見ている──といったトコロでして。
「ワルディー。うまいよコレ」
俺がナポリタンを頬張りつつ微笑んで言うと、うんうん、とワルディーも満足そうに頷いて、自分のナポリタンをフォークでまきまき。
「……ダメだろ。ここは『ぐっはぁ! 辛! あのワルディーはまた変なスパイス入れやがって!』ってトコだろ。──キャラを履き違えるんじゃない!」
〈なんで叱ったんだよ……。まあ、ワルディーは麺にはうるさいよ〉
──ほう。そうなんだ。
ただの酢メシキャラ……ではないと。いやどんなキャラ枠よ。
どうやら自慢の妹みたいだな。姉バカか?
「お姉ちゃんが、ワルディーは麺にはうるさいって得意げに言ってるぞ。そうなのか?」
俺がそう告げると、ワルディーもなんだか調子に乗った感じでフフンとドヤ顔。
「……少しメンがかたいレス。あげる時間をしくじったレス。ワルディーのニャポリタンはまだまだこんなものではないアル」
「ないアル」とキやがった。ドッチだよ。難しい顔でモグモグと味わいながら、確かにワルディーが麺にウルサイ。
「ん~……。かたいかたいカタイカタイかた~い!!」
「麺にうるせえ!!」
〈違う違う違うワルディー! そういう意味じゃないよ!〉
机をばしばし叩いて騒ぎ立てるやかましいワルディーに、俺は衝撃で固まった。




