五時間目の戦士達2
「私を誰だと思っているんだね君ぃ。言うことを聞きなさい」
ワルディーの前に立ったぐちゃぐちゃの紳士は穏やかな口調だった。
ワルディーは怯えるわけでもなく、まるで何かに堪えるかの様に、尚も悲しげにまた顔を横に振る。
「人型が更なる強制認識を展開! ワルディーが『認識兵器』による攻撃を受けている可能性が高いです! こちらの呼びかけに応答しません!」
空院女学院司令室でアナライザー兼オペレートリーダーが専用端末を前に声を上げた。
同室内の前面に設置された大型モニター。その一角に映るワルディーと世界核に目を向け、ナツミはすぐさま別のオペレーターに声を張る。
「姫は向かえるか?!」
「現在高速人型二体と交戦中! 振り切れません! 位置も離れすぎています!」
「親衛隊は二名がアクロバット阻害を受けており他三名がフォローに回りながらの防戦に追い込まれています! 敵光球型三体はいまだ健在!」
「やはりあの二人にはまだ早いか。──会長!」
〈──もう狙ってる〉
屋上には伏射姿勢でボルトアクションのスナイパーライフルを構える生徒会長。
アップにまとめた髪の毛先が風に揺れる。
「全学徒へ。痛みを、失礼。──クラス・ツー、ファイア」
有効射程完全無視。覗くスコープの照準すら定まっていない。それでも会長は通信に声を乗せ、撃ち放った。発射直前、彼女の頭部から角冠じみたプラズマが猛々しく排出された。
通常ではありえない激しい銃声と副作用を周囲一帯に撒き散らし、弾丸はマッハを大きく下回る低速で重力に殺されるかの様な謎の弾道を描く。
だがその弾丸は地表スレスレから炎を噴き出し、一気に急上昇した。
それはやがて大きな火球となって、いつのまにか親衛隊に囲まれる形で地上二百メートル付近のポイントへと誘い込まれた世界核三体に下方から襲い掛かる。
空戦に舞う三人の親衛隊がバック転で三方向へと華麗に回避し、その中央を突き抜ける激しい火球が世界核三体に直撃、そして巻き込みながら、天高くへと昇っていく。
いい連携だ。ダメージ、80。残120。
ダメージは通っている。ならば通常兵器だろうが一気に叩き込むべきだ。
火球がスピードを落としながら地上約六百メートルで完全停止。世界核達を中心とした巨大な炎となった。
〈──今だロングレンジ!! 炎の中心に一斉攻撃!!〉
ナツミの号令が学徒達のインカムに響き渡った。
「いっけえええええ!!」
「たああああああああ!!」
「ねね子! やろう!」
「はいナルナさん! ねね子、撃ちます!」
「撃ちつくせやあああああ!!」
「オラオラあああぁぁぁぁ!!」
「うぎゃー!! 吹っ飛んでケツ打ったー!!」
「なーる! あんたレベルじゃスタンディングの反動に耐えられないから依託射撃じゃなきゃダメだって教官に言われてたでしょ! 罰としてオレンジおごってよね?!」
「なんで?!」
「いくわよ世界核! 必殺! おやつバースト!! って、あ、あれ?」
「ヤツコ安全装置外して!」
「BLバースト、GO」
「──そ、それは」
「そう。魔法金属ミスリルをバレルに使用する事でエーテルロックを可能とした邪悪なる遺産。最大射程666天文距離を誇る神殺しの銃──。その名は、スター・ペイン」
「──あ、もしもしカズヤ? そっちどう? ……うそー。えウチら? 今超撃ってるし」
「一斉射撃、なう」
屋上、校庭、校外に展開するロングレンジ部隊がライフルによる一斉射撃をお見舞いする。
炎の中の世界核達へと的確にぶち当てる凄腕スナイパーから見事に全弾外しちゃってる残念な女子、微弱な『認識兵器』を纏わせる者達の躍動が荒れ狂い、嵐の様な弾丸が敵を襲った。




