惜しい少女
「ふやあああああああああああああ!!」
と、黒キモが来た方角より、可愛らしい雄叫びを上げながら何かがコチラにすごいスピードで迫ってきた。
何ですか? UFOですか?
いや……女子だ。変な女子が空走ってる。
うお! 何かアホみたいにデカい剣持ってる! 長っ! 刃の部分、長っ!
「もう終わりです!」
「え何が?!」
黒キモがまたワケのわからない事を言うと、俺のツッコミを無視して女子とは反対方向に飛んでゆく。
逃げたのか? 追われてたのか?
ちょっと呆気にとられている俺のもとに、変な女子がその猛スピードをUM緩衝でガッシャンガッシャン殺しながら、イイ感じで俺の目の前にキュキュッと停止した。
へえ。幼い感じで可愛らしい。
緩いウェーブの長い金髪。パチクリした目。
赤と黒の戦闘用ロングコートにセーラー服。短めのスカートから伸びるのは黒タイツとロングブーツ。
そしてなんだコレ。
え~、立て看板みたいな厚めの鉄板片側にグリップを削り出して、もう片側に刃。
それが二メートルくらいの長さなんですが……え~、その刃がパチパチとプラズマ発して、磁力みたいに、なんかすごいのを引き寄せています。
ジャンボジェットの羽みたいな、更なる刀身が引き寄せられています。
刀身合体です。全長五百メートル超えてます。
そんな感じの兵器を、彼女は両手で腰前あたりに持っています。まるで通学カバンでも持つかの様に。
「も、も、も、も、も、も、も」
お、なんだなんだ。変な女子がなんか俺に目を見開いて、唇を尖らせて奇声を出し始めたぞ。
「ん、も、も、も、も、も、も」
「ん、ん、も、も、も、も、も」
頑張って俺に何か伝えようとしてるので、俺も真似してみた。
何か二人して猫みたいな口しながら、ほんと、頑張ってますんで。
「──あ、あ、も、ね? ね?」
「ん、ん? え?」
変な女子は黒キモの方角と俺の顔を交互に見やり、何か同意を得る様なニュアンスの声を出してるが、うん、分からん。
俺もとりあえず「ね? ね?」に対し「ん? ん?」と理解に努めた。
まあ「ちょっと急ぎますのでまた後で。ね?」みたいな事を言いたいのかな、とは思う。
しかし何であれ、彼女の一生懸命な「あ、も、も、ね?」が中々可愛く、変に中毒性があるので……このまま解放するには惜しい。
──変態か。
我に返った俺は「うん、うん」と彼女に微笑み頷き……いってらっしゃい的に、小さく手を振った。
彼女は満面の笑みで「ん! ん!」と頷き──
キッ、と黒キモが去っていった方角に顔を向けると、またすげえスピードで空を走り去っていった。
(大丈夫そうだな)
俺は思いながら、彼女の駆けていった光の軌跡を遠く眺める。
やがてその先から、鈍い破壊音と共に放たれた黒い衝撃波が津波の様に押し寄せ──
それは俺の髪や衣服を激しく、連れ去るくらいになびかせながら、音の速さで俺を通り過ぎていった。
そんな状況を確認した俺は……。
カツン、カツンとまた一人、なんだか自由な空を降りていった。