表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/174

空を歩こう

 

 

 ゆっくり行こう。天気はいい。

 

 

 別に、こんな回りくどい事しなくても、パッと地上に降り立つ事だって俺には出来る。

 

 しかしそういうのは、あるリスクもあってね。

 うん、まあ、世界に優しくないんだよ。


 もう、あんま、こうやって動き回る事もないし。

 こうやってゆっくり世界に触れていると、生きている、と……少し心が、暖かいから。


 

 よーし。歌っちゃえ。


 

 

 すすめ~♪ 足掻け~♪ 撃~ちつくせ~♪

 

 勝利の為なら~♪ 何も欲しがらず~♪ 全てに耐えてゆく~♪


 強い弾薬♪ 勇気の手紙♪ 傷薬と~ビスケット♪ 愛する人~と君らの笑顔♪


 それさえあれば~進んでゆける♪ それだけで~いい~♪




──結構欲しがってんじゃん。なんて、当時の軍歌をアイツと笑ってたっけ。


 記憶に微笑みながら、続けて俺はその当時ガキどもの間で流行っていた曲を口ずさむ。

 



──と。


 ナニかが向こうの空から、コチラの方にすごいスピードで迫ってきます。

 なんですか? UFOですか? 

 

 いや……。なんかグチャグチャした、変なモノだ。



 でかい。

 縦百メートル、横百メートルくらいの変なの。

 丸くなったり、こう、びよーんって伸びたり、変なの。


──伝わったね? 大丈夫だね?




「……なんか黒くて、キモい」

 俺は足を止め、すごい勢いで迫ってくる黒キモを特に慌てる事もなく見ていた。


 なんかバチバチとプラズマっぽいモノを撒き散らしながら……黒キモは遂に俺の目の前に迫り、急停止した。


 

 デカ。なんかキモ。


 全体にノイズが走っていて、その黒の中にはたまに、人の顔とか手足みたいなもんがボンヤリと浮かび上がっている。キモい。

 町? 城? なんか色んな風景みたいなのも、浮かんでは消えてゆく。……ん~、なんか、例えると、こう……キモい。

──わかるね? 大丈夫だね?




「いつだってお前は成長したためしが無い」



 いや、初対面ですが。てかしゃべった。キモ。

 

 黒キモはこの星で使われている共通語でいきなり何か言ってきた。

 

 無礼なヤツだと思う。


 


 どうする? 謝っておくべきか? 

 いや謝ったら負けな気がする。

 

 待てよ、昔、学校の怪談でこんな感じの特殊なエンカウントの際に、答えを間違えると食われる的な話があった。答えは慎重、かつ状況から的確に推測されるべきである。

 

 そして少しモジモジしながら考えた結果、俺が導き出した答えがコレである。




「──黒く、そしてキモい」




…………完全にアウトな気がする。


 見たまんま口にしてしまったワケで。


 

 俺は生来の空気の読めなさで、周囲とのイザコザはしょっちゅうだった。

 違う、こんな風に言いたかったんじゃない。俺はもっとうまくやりたいんだ。

 そんな後悔の繰り返しだった。


 今回の件にしても、もっと言い方があったハズだ。失敗はバネにしなければ。


 俺は小さく咳払いをし、穏やかに言い直した。




「やや黒く、そしてキモい可能性も捨てきれない」




…………そういう問題じゃないと思う。


 

 まず状況の意味が解らない。

 俺はナゼいきなり初対面の変なのに罵られ、モジモジしているんだろう。

 この黒キモは何でそんな配慮に欠ける発言をしたのだろう。

 なんかフワフワ浮いてるし。反応無いし。



──待てよ。

 黒キモだってほんとはこんな風に伝えたい訳じゃなかったのかもしれない。


 素直になれない。不器用。そういった部分で誤解を与えやすいというのは俺自身も苦悩に苛まれた事ではないか。

 

 案外、似たもの同士なのかもしれない……な。



「黒キモ……」

 

 俺は気恥ずかしさで黒キモからやや視線を外し……照れ隠しに小さく鼻をこすると、思わず声を漏らしていた。




「一緒に行くのか行かないのか。ほんとう、そういうトコロがね。お前は」




…………え、何ですか? 俺何かしました? 

 

 いや、初対面なんですよ。

 今更だけど色々おかしいよ。

 行くのか行かないのかって、ドコにだよ。……なんか……無礼なヤツだと思う。



 黒キモはフワフワと、俺はイライラとし始めた──その時だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ