俺、大気圏突入
俺は今も昔も無気力だ。生きる事に後ろ向き。
「だが無意味だ」
これが俺の口癖だった。
どうだいこの痛さ。関わりたくないだろう?
あ、俺は今、地球の大気圏下ってます。
地上に向けて、すっごい速度で、イイ感じに落ちてます。生身です。大丈夫です。ファンレター待ってます。
地球ノ皆サン、コンニチハ。未確認飛行物体デス。
──ふん。脆弱なる地球人類よ。神というモノがお前達にとって何をもたらす存在なのか、跪き、その真実の時を願い、そして嘆くがいい。
どうだいこの痛さ。ほっときてぇだろう?
あ、あ、なんか積乱雲に突っ込みました。
あ、すごい! 分厚い! あ、なんかヌルヌルしてる! それでいてソフトな肌触りで、意外にしつこくない!
あ、ぬ、抜けるよ? 出るよ? い、いっぱい出るよ?! あモウ出るっ!
ばひゅーん! と雲を突き抜け飛び出た先で、俺はズボンのポッケに手を突っ込みながら自前のUM緩衝を足元で幾重にも展開させ、光のガラスの様にそれをブチ破りながら落下速度を殺してゆく。ブレーキ。クッションですな。
何UMって。とかもう情弱。今超キてるからUM。龍ヶ崎とか行ってみ?
「お支払いの方はいかがなさいますか?」
「あ、UMで」
コレだから。シャレオツ。超クール。
「会員登録の際は何か身分証のご提示が必要になるんですが……」
「UMでいいスか?」
ステキ。抱かれたい。
──ね、はい、まあ龍ヶ崎ってドコだよって感じなんですかね、はい。
茨城の、イイ感じのトコですよ? 色々、うん。見所もね、うん。イイ感じで。はい。
説明すんのメンドくさいんでとりあえずマジカルサンシャインパワーで急停止した俺は、下界を見下ろす。
海と陸、そして爆発光。
自然的には発生しなそうな黒い雲が所々で不気味に滞留し、小さくドーン、ドーンといった懐かしさすら覚える爆発音が俺の足元から聞こえてくる。
俺は少し切なげに目を細め、相変わらずポッケに手を突っ込んだままスラリと空に立っていた。
少しして、俺は首を軽く回すと「うん」とだけ儚げに声を漏らし……何も無い空間を階段の様に、ゆっくりと下ってゆく。
地球は今日も賑やかだ。
カシーン、カシーンと、俺の履くロングブーツの靴底が、展開させる光の階段を踏みしめる毎に寂しく鳴く。
その音は、まるで居場所が無い事を嘆くかの様に。
その音は、この世界に拒絶されるべきだ。