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旅支度

 


──まあ、ここまでの道のりを軽くおさらいしておくとですね……。

 


 噴水広場の受付で登録を済ませた俺達も──じゃ行こっか、と、遠足に行く位のノリでクリューの大祭壇への道に踏み出したんだ。


 まずマウファーがおどおどと、何か俺とメガミにかしこまった挨拶を振り絞ろうと頑張っていたが……俺は「まあまあ」と、ちっこい幼女の頭をぽんぽん叩き、ふと目に入ってきた小さな雑貨屋さんで旅の準備を整える事を提案してみたワケでして……。






「……なんでお鍋のフタなのよ」


 生活用品や食料品、くわえてチョットした薬品や安物の装備品なんかの雑貨にあふれる、ごみごみとした狭い店内。

 おとなしい幼女に、商品であるお鍋のフタを盾みたいに装備させる俺へ……大魔導が穏やかにツッコむ。



「バカヤロー! 冒険ってのはなぁ、最初はこういうモンなんだよ! まず最初の町でお鍋のフタ! お金が貯まったら鉄の盾! そんで……ちょっと頑張って、イージスの盾とかだよ!」

「ちょっと頑張ってイージス。なんかイージス安いわね」

 俺の熱い主張にメガミは固まる。



 そうしてレジのオヤジに「これ下さい」と、俺は鍋のフタを差し出すと──



「……いや、フタだけ買われても、困る」との事。



……うむ。解らなくもない。

 

 というわけで、泣き別れとなっていた鍋本体も購入するハメに。

 するとオヤジが「おまけだよ」と言って、鍋に付き物のオタマもくれた。

 

 あと途中でマウファーがお腹をすかせるといけないので、オヤツがわりにレジ横に積んである小袋入りのバタークッキーを一つ手に取ると──

 その隣に置いてある、謎の猫耳カチューシャもチョット気になったので……ついでに購入。ゴメンさたにゃん。これ絶対無駄遣いだわ。



 買い物を済ませた俺達三人はクエスト遂行中なもんで、サッサと店を出た。

 祭りの中心から離れた雑貨屋の外にはひと気はあまりなく、隣のボロ家につながれた犬みたいなのがキャンキャンと吠えてくる中……俺らの間で粛々と、旅の準備が行われた。

 

 

 ちょっと恥ずかしそうにうつむくマウファーの右手には……オタマ。左手には、お鍋のフタ。


 拒んでいたが渋々と受け入れた"大魔導"の頭には……フードの上から装着した、猫耳カチューシャ。


 鍋本体は……とりあえず、俺が頭に被ってみる。




「何この一行いっこう……」


「実際こんな感じなんだよRPGって……」


 何がしたいのかよく解らない装備にメガミはボソリとこぼし、俺も少しやるせなく、小声で繕った。



 追い討ちをかける様に……犬みたいなのが、不審者を吠えたてるみたいにキャンキャンと──。

 立ち尽くす俺達に、いつまでも容赦が無かった。




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