田中
噴水広場の出来事から数刻後────
「──下がっていろマウファー! 俺がケリをつける! "大魔導"! 援護を!」
木々が生い茂る、緑に囲まれた遊歩道で……
なぜかお鍋を頭に被る俺と、なぜかオタマを右手、お鍋のフタを左手に携えるマウファーの前に──
立ち塞がる、クッソかわいい猫型野獣が一体現れた!
コマンド?
[たたかう]
[ただ飼う]
[棚を買う]
[田中]
どんな命令だよ。
[田中]と言われましても……どうしろと?
なんで今、棚を購入する必要があるのか。
──ふん。そうなると答えは必然的に決まったな。
こんなクッソかわいい野獣は……ただ、ひたすらに飼うのみ!
「んにゃ~ん」
と、俺はトロけ顔で気持ち悪い猫なで声を出しながら、ちっちゃい手乗りサイズの野獣にネットリと接近。
「きゅ」
と愛らしい鳴き声で、野獣は草むらの中へ逃げていった。
「──どうしろと言うんだ!!」
「遊ぶな」
片手で空を薙ぎ払って天に問う俺の背後で、"大魔導"が穏やかにツッコんだ。
「あ、こ、子供のチチルはとても臆病だから……。おどかすと、かわいそうなんです……」
"大魔導"のとなりでドキドキしてるちっこいマウファーからも……お叱りの言葉を頂きました。
チチルっていうのか、あの猫みたいなの。町の路地裏でエンカウントしたやつの子供バージョン。かわいい。
(や~いや~い。叱られた~)
むう! 俺の脳内に直接、おどけた感じで語りかけてきやがってこの"大魔導"!
俺が猫口でムッとしながら"大魔導"に顔を向けると、目深に被ったフードで半分隠れたヤツの顔は相変わらず涼しげで、お上品。
(へっ! 幼女の前だからって猫被りやがってこの子犬!)
──まあ、テレパシー的なモンだと思ってください。
俺は眉を八の字に歪めて、猫口でビシッと、子犬に人差し指を突きつける。
(う、うっさいわね~。私はココじゃ、気高く美しい"大魔導"で通ってるんだから……ちゃんと協力しなさいよね~)
じっと、穏やかに俺を見つめる"大魔導"からそんな返信が。気高い子犬から返信。
──クエストの目的地である、クリューの大祭壇へと続く、その道。
小鳥達の声と、木々の隙間から降り注ぐ陽光が美しい、緩い斜面の山道で──。
はたから見れば、変な顔して無言で人差し指を"大魔導"に突きつける、お鍋を被った変な少年である俺を……
お鍋のフタとオタマを携えたマウファーがドキドキと、なんだか不思議そうに眺めていた。




