再出発
「──それでどうしたの? 何か非常事態?」
さたにゃんの問いに、俺は追憶から引き戻される。
「いや。いつもの事だよ」
そう、いつもの事だ。
俺の身体は『逆さ日本』と共に消滅した。
心地良かった。
このまま永遠に眠りたい。あの時もやはり、心の奥底で消えない想いが俺を支配していた。
そして俺はどこかの宇宙でまた再生される。
今日もアイツは赦さない。
「──おかえり」
さたにゃんは決まって切ない笑みでそう言う。
彼女は俺が幾度となく消滅と再生を繰り返している事を知っている。
俺の自殺願望を嘆いたり、叱り飛ばす様な事もしない。決まってそう言うと、そっと俺の手を握って傍にいる。
その時、簡単に尽きてしまう俺の生への熱が補充されているみたいな感覚なんだ。
「またイヤらしい事考えてるんでしょう?!」
俺はそう言ってさたにゃんの手を振り解いた。
「考えてないし! ナニ『また』って?!」
さたにゃんは衝撃に固まった。
ふ、ふん。毎度の事ながら、手を離す時のタイミングが難しい。今回も照れ隠しの様に冗談っぽく誤魔化した。
まったく……手とか握んな恥ずかしい。
「さてと。行くか」
『逆さ日本』での出来事から一週間程経ってしまった。
『世界賊』姉さんからは「何をもたもたヤッてんの!」トカどやされそうだが、あの時の状況から考えれば、そう焦る事でもないだろう。
ていうか俺行かなくても大丈夫な気もする。
「どこに行くの?」
さたにゃんが興味深そうに訊いてくる。シッポをやたらとパタパタさせている。
「……女子校」
「……え?」
理解出来ていないさたにゃんに「じゃあな」と残し、俺は消えた。




