初詣にて
季節外れの話題になってしまいました。
この機会に、今年の初詣のことを思い出してみてはどうでしょうか。
20○○年1月1日午前0:00
20○○年が終わり、新たな一年が始まった。20○○年の幕開けである。
スマホには、友からの「あけおめ」の通知が次々に届く。それが終わると、「ことよろ」との通知が届く。
僕は、その通知音と重くなって動きが遅い画面に少し肩を落とした。
「なんでこんな時間に、送ってくんだよ。なぁ。」
「せっかくのこの貴重な一年の始まりぐらい、静かに過ごしたかったよ。ほんと。」
部屋には、僕以外に誰もいない。
そう、これは独り言。この冬休みの間は、家族以外の人に会うことは少ない。家族とは、特に話すこともないので、自然と独り言が増えてしまう。今日この頃である。
だが、僕は案外この独り言が好きなのである。自分に語り掛けて、自分で答える。自分の中にある友や、先生、家族の性格や口癖を織り交ぜつつ、会話を構築する。これが、面白くてたまらない。
「よし、じゃあ、寿美世氏様にお参りしとくか。あそこなら、静かだし。星もきれいに見えるから。」
「ちゃんと懐中電灯持ってけよ。暗いから気を付けろ。」
これは、我が父の語りぐせである。高1の僕を、子供扱いしてくる。
「分ってるって、わかってるよ~だ。」
これは、我が姉。同じことを二度繰り返し、二度目の語尾を伸ばす。
僕は、言いながら面白くなって少し笑みがこぼれた。机の引き出しから懐中電灯とカイロを一つ取って、外へでた。
寿美世氏神社までは、徒歩で十分と少しである。石段111段に骨を折るが、丘の上から見る、天も地も本当に絶景である。小さな神社であるが、その歴史は古いそうだ。
「夜に出かけたのって、いつぶり?。」
「えっ・・と、夏の花火大会以来だから、四か月ちょっと前かな。たぶん。」
こんな調子で、無難な会話?独り言をつぶやきながら寿美世氏神社へ行くのであった。
神社は案の定、人一人いなかった。
満点の星空の下、僕は財布から(良いご縁がありますように)と期待しつつ五円玉を取り出した。賽銭箱にそれを投げ込み、鈴を鳴らす。
「今年は、勉強に部活に何もかも上手くいきますように。それでなくとも、失敗だけはしないように、上手く俺を導いてください。寿美世氏様よろしく頼んだからな。なんかあったら、寿美世氏様のせいにするから。じゃあ、また来るよ。」
『お前は、神様に上からモノ言うのか。そんなことしてるから、色々な災難に逢うんだよ。』
『五円にしては、お願いしすぎじゃない。』
!?(誰だ?)
『よう、こんな夜遅くに会うなんて奇遇だね。あけましておめでとう。今年もよろしく。』
「えっ、亮に桜じゃん。あけましておめでとう。なんでよりによって、今年初めて会う相手がカップルなんだよ。つか、どこにいたんだよ。」
『そこの展望台で、星空見てたのよ。』
桜は、境内横の公園にある展望を指さした。
あの展望台からは、星空だけでなく、その眼下には松山平野が一望できる。
天の星空、それに眼下には民家の明かりが星のように点在している。僕は、これを≪星空のサンドウィッチ≫と称している。
『これから、初詣だよ、初詣。桜が行きたいっていうから。』
『いいでしょべつに、隣に神社があるんだもん。それよりさ、なんでさっき願い事をあんな大声で言ってんのよ。まるぎこえなんだけど。あんたってそういとこ面白いよね。』
「いや~、全部聞えてたか。」
『当たり前じゃん。下の民家にも聞こえてんじゃないってくらい大きかったもん。』
桜は、同意を求める様子で彼の顔を覗き込むと、亮はこくりとうなずいた。
(あ~あ、出たよ、カップルあるある。彼女に反抗できない彼氏。)
心の中でツッコミつつ、
「これが俺流のお参りの仕方だから。」
と話を継ぐ。
『なんだよそれ。意味不明なんだけど。』
「前から思ってたんだけど、神社の神様って騒がしいの好きでしょ。でっかい鈴ついてるしさ、祭りだって太鼓とか獅子舞とか、喧嘩神輿とかさ。色々あるけど。で、俺が思うのは、心の中で呟くくらいなら、大声で言った方が叶うんじゃないかって。神様の好みに合わせてっるわけよ、どうよこの俺流のお参りの仕方。理にかなってると思うんだけど。」
そして、これが僕流の話術である。結論から言って、興味を引き付けつつ、ビッシっと話を締める。なんとなくすごいいいこと言ってる、と思わせるならこれが一番有効なのだ。これも、独り言の鍛錬で培われた。独り言も馬鹿にならないものだ。
二人は、ほ~、と感心したような顔をして
『珍しく、いいこと言うじゃん。』
なんていう、褒めてるのか、貶しているわからないことを言うのだ。
「じゃあ、帰るわ。また学校でな。楽しい夜をお過ごしください。」
『おう。またな。ちゃんと宿題終わらせとくんだぞ。』
(もう、終わらせてんだけど・・・)
二人と別れて、一人また111段の石段を降りる。
「なんなんだ、あいつら。ムカつくけど、本当に羨ましいわ。」
そして、最後の一段を降りようとしたとき、
『今年も二人で幸せに過ごせますように。』
っと、大声が上から降ってきた。
「やっぱり、あの二人。ムカつく。」
こうして、僕の20○○年はこうして始まった。