表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『夜露図屋(よろずや)』   

作者: 千歳命
掲載日:2014/01/03

 その世界は、この世界とは全く異なる異空間にあった。その世界には、在りとあらゆる植物が全て存在し、天には月と太陽がともに輝いていた。そして、数限りない動物達も住んでいた。しかしてここには、季節も気候も無い。なぜなら、植物たちが個々に季節と気候を纏っており、同種の植物であっても季節は異なっている。その上、同種で群生することも無い。動物達も、同じだった。


 だが、そんな世界にその店は存在した。その世界の中心の太く高い木の幹、世界大樹と言うユグドラシルの幹に……。


その店の名は、「夜露図屋」。


 何処にもないかもしれない、何処かにあるかもしれない、それが「夜露図屋」の文句だった。街の大きな通りの隅にある小道を通り抜け、小さな石橋を渡りぐるりと右へと迂回し、階段を降りてそのまま真っ直ぐに行けば、幹に突き当たる。その幹に沿って左に歩けば、その店「夜露図屋」はあった。


店には、双子の少女達が働いていた。少女の一人は、ソラと言う五歳の女の子だった。髪は空のような水色をしており、ショートカットのように短い。見た目のとおり活発で勝気な女の子だ。しかしながら勝気であるがゆえとてもわがままな子で、いつもジュリを困らせている。


そしてもう一人は、ジュリと言う女の子だった。髪はとても長く、木の葉のような深い緑色をしていた。ジュリはソラと違い、とてもおしとやかな女の子である。しかしながらとてもおっとりとした天然ぽけぽけな子であり、いつもソラを困らせている。


けれども、二人はとても仲良しだった。


そしていつも二人は、一緒。


遊ぶ時だって、ご飯を食べる時だって、寝る時だって。そうそう、お風呂の時だって二人は一緒だった。


そんな仲良しの双子の二人が営んでいる店が、ここ「夜露図屋」だった。


そして今日も、ちょっと変わったお客さんが店にやって来る――。



カラン、カラン。店の玄関を開けて、お客さんが辺りを見渡しながらいぶかしげに、のっそりと入って来た。それに気が付いたソラとジュリが元気いっぱいに、


『いらっしゃいませ~!』


 と、挨拶をした。


「何をお探しですか?」


 と、ソラ。


「ここはぁ、ないものはないお店『夜露図屋』でございます」


 と、ジュリ。


「ちょっとジュリ、間違っている! 間違っている!」


 ふいに、ソラがジュリの脇腹を突付いて小声でそう言って来た。


「コホンッ――、ここは何でも屋『夜露図屋』でございます。そろっていないもの、ないものは決してございません!」


 と、ソラが大きく訂正した。その言葉に、お客さんが細い目で二人を見つめてくる。とても怪しんでいるようだった。しかし思い立ったのか、ふとこんな言葉を漏らした。


「あれを……。あれを探して欲しいのじゃが――」


 お客さんは、しわくちゃな顔をしたおじいちゃんだった。今年で八十歳になるおじいちゃんは、左足を引きずっており、とても難しい顔をしていた。


「はぁ、探し物の依頼ですね? 一体何をなくされたのですか?」


 そう言って、ソラが尋ねてみた。


「全く……ちゃんと見つけてくれと約束したはずじゃったのに、あのアホたれめが――」


 しかし、おじいちゃんは話しを聞いていないのか、ブツブツとこんなことを呟いていた。


「あの……一体何をお探しで?」


 もう一度ソラは、おじいちゃんに尋ねてみた。その言葉に、

「んん? ああ……まあ、そのぅあれだ。あれをさがしておるのじゃ」


 と、おじいちゃんはぶっきらぼうに答える。さすがに「あれ」と言われても、ソラには全く分からなかった。すかさず、ジュリが答える。


「あのぉ、『あれ』と言われましても私たちには分かりかねます。ちゃんとした名前を言っていただかねば――」


「はぁ? 分からんのか? あれじゃよ、あれ! ええい、気の聞かん女の子たちじゃのぉ!」


 そう言われて、ソラはついにカチンと来てしまった。


「そんなこと言ったって、分からないものは分からないの! ちゃんと名前を言ってよ!」


 その言葉に、おじいちゃんはむっとした。


「何おう? そっちが分かればいいことじゃないか! だいたい、あれはあれなんじゃ! それで十分じゃろう!」


「だからぁ、あれあれと言われても、こっちは『あれ』が何かなのかも分からないんだってば!」


 そうソラが説明してみるも、おじいちゃんはなおも突っかかって来る。


「あれは、あれ! それ以外に知らんわい!」


「もう、分からずや!」


「どっちがじゃ!」


「まあまあ、二人ともそんなカッカしないで?」


 ふいに、ソラとおじいちゃんの間にジュリが割り込んで来た。


「ねぇ、おじいちゃん」


「……なんじゃ?」


「一体何を、探して欲しいのですか? 『あれ』と言われましても、私たちはその『あれ』と言うものをまだ知らないのです。ですから具体的に言っていただかないと、探しようがないのですが……」


 そうソラに言われて、初めておじいちゃんは苦々しいような、なんとも言えない顔をした。


「ううむ……確かにそれも、そうじゃな。しかし――」


 言おうか言うまいか、おじいちゃんはしどろもどろしとても悩んでいた。けれども、やっと決心をしたのかおじいちゃんは唇をきゅっと噛み締め、目を細める。


「探してもらいたいものがあるんじゃ。そのぉ……手紙をな――」


 そうおじいちゃんは、ソラとジュリに向かって言って来た。その言葉に二人は顔を見合わせて、


『はい、承りました!』


 と、元気良く答えた。


「で、どのような手紙でしょうか?」


 ソラに尋ねられて、おじいちゃんはまた目を細くし考え出した。


「はてのぉ……、どう言ったものじゃったかのぉ? もうかれこれ六十年も前じゃったから――」


「六十年――!」


 おじいちゃんの言葉に、ソラは驚きあふれた。


「ははぁ、そんなに昔なのですかぁ……」


 ジュリはその言葉の意味が分かっているのかいないのか、にこやかな表情で平然と答えてみせる。


「そうじゃよ? その頃は、戦争と言うものがあってのう!」


 おじいちゃんは遠い昔を思い出すかのように、虚空を見つめそう言って見せた。


「時はそう――。1945年の、太平洋戦争終戦前じゃった……。わしは最後の神風突攻隊第十三部隊として、陸軍に所属しておった」


「『神風突攻隊』?」


 その言葉に、ふとジュリは首を傾げて見せた。


「かっかっかっ、ただの名称じゃよ。日本は神風があるからのう、そう呼ばれていたんじゃ」


「ふぅん……」


「わしは実は、その部隊に入る二日前結婚をしたばかりだったんじゃが。その戦争のせいでのう、新婚旅行からとんぼ返りしたんじゃ」


「エエ? てことは、奥さんとは二日しかいなかったってこと?」


 おじいちゃんの言葉に、今度はソラが答える。


「そうじゃ。その頃は、海外なんて夢のまた夢であってのう。新婚旅行といえば、箱根か熱海じゃったわい」


 おじいちゃんはそう、昔を思い出すようにしみじみと言って見せた。


「そうだったんだ……。可哀想だね」


「ジュリ! 違うでしょ?」


 そうソラは言って注意してみせるも、おじいちゃんは別段気にしていなかったようで、またも何処ぞとも知らぬ虚空を見つめていた。


「そう……あれはひどい戦争じゃった――」


「――空の場合、場所を選ばんからのう。敵・味方、ごちゃごちゃ入り混じって戦ったものだよ。しかも、戦っていけばわし等の味方はハエのようにどんどん落とされていく……。最後確か、味方はわしだけになっておった。それでも、やつらは止めようとしない――」


 そう言っておじいちゃんは、ふぅっと息を付いた。


「……いや、つまらん話しをしたな」


「そんなことないですぅ」


「そうだよ、私はためになる話しだったと思うよ?」


 そうソラとジュリの二人が褒めると、おじいちゃんはこっぱずかしそうに頬をポリポリとかいた。


「いやいや、それよりも手紙のことを思い出したんじゃよ。確か、その『神風突攻隊』に入る前じゃったかの。手紙を書いたのは」


 おじいちゃんがそう言った瞬間、ソラは「そうだった!」とばかりに、ポンッと手を叩いて見せた。しかしジュリはその数秒後、ソラと同じくポンッと手を叩いて大袈裟に頷いてみせる。


「場所を思い出したのですね?」


 と、ソラが。その言葉に、おじいちゃんはこくりと頷き、


「ああ、しっかりがっちりな」


 と、細く笑って見せる。どうやら、細く笑うのは癖のようだった。


「それじゃあ、探しに行きましょうか」


 と、今度はジュリが言って見せる。


「ゆこう!」

「ゆこう!」


 そう言うことなった――。



 三人は店の外に出て、ゆるゆると小道を歩いていた。そばにはアジサイ、オミナシエ、ヤドリギやサルスベリなど色々な種類が生えている。グミの木も生えていて、その枝にはおいしそうなグミがそぞろになっていた。それを楽しげに歩いていけば、やけににぎやかな街の大通りへと抜けた。


道行く人々や店の人々は皆、ソラとジュリを見つけてはにこやかに挨拶を交わしてくる。


「嬢ちゃん、今日はいいサカナそろっているよ!」


 とか。


「お、今日は散歩かい?」


 だとか。


「あらあら、こんにちはソラちゃんにジュリちゃん」


 だとか。


 みんなが何故、ソラやジュリに挨拶してくるのかソラとジュリは分かっている。がしかし、あえて口にはしなかった。そう、してはいけないのだ。だから二人は、軽く会釈して、その場を立ち去った。その様子を、おじいちゃんは懐かしげに見つめている。


「? どうしました?」


 ふいに、おじいちゃんの視線に気が付いたのか、ソラがそう尋ねて来た。その言葉に、フッと言葉を漏らす。


「いやな、懐かしいなぁと思ってのう……」


「懐かしい……?」


 と、今度はジュリが。


「そうじゃな……。とても懐かしい懐かしい、子供の頃の話しじゃよ――」


 そうおじいちゃんが言って見せると、二人はなんだか申し訳ない気がした。何故なら、おじいちゃんの瞳には、塩辛い涙があふれていたからである。


「……」

「……」


「いやいや、またつまらん話しをしてしまったな。さぁ、手紙を探しに行こう!」


 涙をそっと拭い、おじいちゃんは笑顔で明るくソラとジュリに向かってそう言って来た。その言葉に二人も、にこやかに笑顔を返した――。



「ここも随分変わってしまったものじゃ……」


 おじいちゃんはそうぶつぶつ言いながら、じりじりと照り付けてくる太陽と、回りを見渡していた。


 ここは、おじいちゃんが昔幼少時代を過ごした思い出の場所である。今はもうあちこち高いビルが立ち並び、空を突き抜けそうなほどだった。昔の面影も、残念ながら残していない。


「昔はどんなところだったの?」


 そう、ジュリが尋ねてくる。


「昔か? 昔は……うむ、そうじゃな。昔はここ一面、畑じゃったぞ!」


 おじいちゃんは大袈裟に大きく手を広げて見せ、そう二人に言ってのけた。その言葉にソラは、


「へぇー!」


 と、喜んでみせる。そしてジュリは数秒遅れて、


「すご~い!」


 と、感嘆した。その二人の言葉に、おじいちゃんはなおもしゃべり続ける。


「おう、この中村さんちの柿とても甘くてのう、良く秋になると、知恵比べしていたものじゃ」


「知恵比べ?」


 今度は、ソラが尋ねる。


「そうじゃ。誰がここの柿を盗ってこられるかのな。しかもここの主人はめっぽう怖い主人だったでな、わしら柿を盗らぬようそこで、ずっと見張っておったくらいじゃ!」


「へぇ……。で、どっちが勝ったの?」


「わしらじゃな。まあしかし、二、三度盗るのに失敗してこっぴどく怒られたことがあるが」


「悪がきだったんだねぇ?」


 その言葉に、ジュリがまたもひどいことを言ってのける。


「ジュリ! お客様になんてことを!」


「いやいや、良いんじゃよ。ホントのことじゃしな。……しかし、懐かしいのう」


 おじいちゃんは気にしていないと言った表情を浮かべ、そうにこやかに言ってみせる。ソラは内心、気が気でなかった。


「ほれ、見えて来た。あそこに丘があるじゃろ? 確かあそこに、わしはあれを――手紙を、隠したんじゃ」


 そう言っておじいちゃんが指差した先には、ちょっと小高い丘のようなものが、ずっしりと三人の前に立ちはだかっていた。しかしその上にも、ビルや家がひしめきあうように立ち並んでいる。


「ありゃりゃ、もうこんなになってしまったのか……。これじゃあ、見つけられぬかもしれんぞ」


 おじいちゃんの顔に、少しばかり焦りが見えた。


「……ねぇその手紙を隠す時、何か目印になるようなものはなかったの?」


 ふと、ジュリが尋ねて来た。その言葉に、おじいちゃんは少し考えて見せ、


「そう言えば……昔はな、ここの天辺に大きな木があったんじゃ。確かその近くに缶に入れて――」


「大きな木ね? それなら見つけやすいわ!」


「しかしダメじゃよ……。その木はもう、三十年以上前に落雷があってな。切り倒されて、なくなってしもうたんじゃそうじゃ。その頃はまだ、こんなに家が建っていなかったから分かりやすかったんじゃが――」


 おじいちゃんは、そう残念そうに言ってみせる。その言葉に、ソラとジュリはこくりと頷いてみせた。


「大丈夫です! 必ず、その手紙を見つけてあげますわ! なんて言ったって私たちは、『夜露図屋』ですから!」


 そうソラとジュリが言ってみせると、二人は目をつぶりそっと手を握り合った。するとどうだろう。二人から淡い光りが放たれ、そこらへんに咲いていた雑草たちがみるみるうちりに動き出し、ざわざわと人間の言葉をしゃべり出した。


『こんにちは……』


 瞳を閉じ淡い光りを放ったまま、そうジュリが挨拶してくる。その言葉に雑草たちも、


『こんにちは!』

 や、

『やぁ』

 だとか、

『ちわ~』

 と言った言葉を掛けてくる。


『ねぇ、ちょっと尋ねたいことがあるの』


 ふいに、ソラがそう雑草たちに向かって本題を切り出して来た。

『三十年以上前にね……この近くの小高い丘で落雷があって切り倒されてしまった、大きな木を知らない?』


 その言葉に、雑草たちは一瞬静まり返った。どうやら、仲間内で相談や尋ねあっているらしい。こしょこしょと小声だが、雑草たちの声が聞こえてくる。


 ふいに、ねこじゃらしが叫んできた。

『多分それ、クスノキだよ!』


 その言葉に、みんなも『そうだ、そうだ』と言ってくる。

『じゃあ、そのクスノキさんがいた場所が何処だったか分かる?』

 今度は、ジュリが尋ねて来た。


『確か、天辺にあるすごく大きなマンションの隅っこに、まだ切り株が残っていたと思うよ?』

 その言葉に、おじいちゃんはとても喜んだ。


『ありがとう!』

 そう言ってジュリがお礼を言うと、

『いいえ』

『どういたしまして』

『またねぇ』

 と、みんなが口々に言って来た。

 ソラをそっと瞳を開けて、おじいちゃんを見てみた。


「それじゃあ、行きましょう!」

 ソラの合図に、三人は小高い丘の頂上へ登って行った――。



 丘を登り切り、すごく大きなマンションの横を抜け隅っこを探してみれば、確かにクスノキの切り株が、寂しげにあった。その姿は生前を物語るかのような、雄大さも残しておらず、とても物悲しかった。

「これじゃ……」


 ふと、つぶやくように言って見せたおじいちゃんの言葉が、なんだかとても寂しげだった。


「良く、無事でいたものじゃ……。落雷があったと聞いた時はもう、お前さんはなくなってしまったのかと――」

 そう言ってみせるおじいちゃんの瞳から、大きな涙が一粒零れ落ちて来た。


「……あの、手紙は何処に隠したのですか?」

「手紙か? そうそう、この木の根元にぽっかり穴が空いとるじゃろ? その中にある、缶にねじ込んだんじゃ」


 そう言われてソラが穴を調べてみると、錆付いてもうボロボロになってしまった缶が見つかった。その缶のふたを用心深く開けてみると、中ならくたびれ薄汚れた封筒が入っていた。

 封筒の裏を見てみると、確かにおじいちゃんの名前が書いてあった。


「バンザーイ! バンザーイ!」

 ソラとジュリは、大きく手を上げた。しかしおじいちゃんは何故か、複雑そうな顔をしている。

「……そう言えば、この手紙誰に宛てて書いたものなんですか?」

 気になって、ソラがそう尋ねてみた。その言葉に、おじいちゃんはまたも細い目をして遠くを見つめた。


「女房にじゃよ……」

 そう言ってみせるおじいちゃんの顔が、なんだか悲しげだった。

「どんな奥さんだったんですか?」

 今度は、ジュリが尋ねて来た。


「そうじゃな……。とても気が聞かんヤツじゃったわい」

「でも、大好きだったんでしょ? 結婚したくらいですから」

「まあな……。幼馴染とはおかしなもんじゃよ。あんなにもけんかばかりしておったのに――」


「ははは、でどちらが勝ったんです?」

「もちろん女房じゃ」


 その言葉を言って、おじいちゃんはフッと息を付いた。

「……あいつは、わしと結婚して幸せだったんじゃろうか?」

 声を落として、おじいちゃんはそう言った。その言葉に、ソラとジュリは顔を見合わせてみる。


「――なら、確かめに行ってみますか?」

 ふいに、ソラがそうおじいちゃんに向かって尋ねてみた。その言葉に、


「そうですよ! 渡しそびれたその手紙を、渡しに行きましょう!」


 と、ジュリも賛成する。

「いや、しかしな……。あいつはもうすでに再婚をしてしまって――」

 そうおじいちゃんは言ってみせたが、ソラとジュリは全然話しを聞かず、ぐいぐいとおじいちゃんの腕を引っ張って行く。仕方なしにおじいちゃんは、二人に付いていくことにした――。



『ピンポーン、ピンポーン』

 玄関のインターホンが二度鳴り、

「はいは~い」


 と、中からおばあちゃんが慌てて出て来る。しかし、その言葉を返す者はいなかった。

「あら? 誰もいないわ……」


出て来たおばあちゃんは、眉をひそめながらそういぶかしげに呟いた。

「イタズラかしら?」

 そう思って玄関を閉めようとした時、ふとくたびれ薄汚れた封筒が目に飛び込んできた。

「はて、何かしら?」


 そう思って封筒を見てみると、旧姓ではあるが自分の名前がしっかりと書かれていた。驚いて封筒の裏を見てみればそこには、昔の夫の名前が刻み込まれていた。

 これは一体どういうこと?


 そう思って、フルフル震える手で中身を取り出してみれば、一枚の小汚い手紙が入ってみた。

 恐る恐る手紙を読んでいくにつれて、おばあちゃんの瞳にうっすらと涙が浮かび上がり、頬を伝って流れ落ちて来た。そして溜まらずにおばあちゃんはその手紙を抱きしめ、誰とも知らぬ人に頭を下げて玄関の奥に引っ込んでいってしまった。


 それを眺めていたおじいちゃんが、

「全く、あんなことで涙を流しおって!」

 と、苦笑したような憤怒したような照れたような、良く分からない顔を浮かべてみせた。


「でも、喜んでいましたよね?」

 おじいちゃんの顔を覗き込むように、そうソラが尋ねてみた。

「おばあちゃん、うれし泣き」

 と、ジュリも。その言葉に、おじいちゃんは顔を真っ赤にしながら、

「当たり前じゃ! わしが書いた手紙なんじゃからな!」

 と、怒鳴り散らしてきた。その言葉に、二人はクスクスと笑い合う。それにつられて、おじいちゃんも笑ってしまった。


「……ありがとうよ。これで心残りがなくなったわい。これで安心して、天国に行かれる――」

 そう言った瞬間、おじいちゃんは消えて行ってしまった。残されたソラとジュリの二人は気を付けをして、

『ありがとうございました! 『夜露図屋』はいつでもまたのご利用をお待ちしております!』


 と、元気良く頭を下げた――。



 空には、大きな大きな雲がぽっかりと浮かんでいる。そして大地には水が満ち満ちており、草や木が根を張り動物達に潤いを与えている。そして太陽はようやく、西の空へと沈みかけていた。


ソラとジュリは、その自然の雄大さに見入っていた。生きとし生きるものは死に、そして無に帰る。しかして無からまた、生が産まれる。その循環を、二人は優しく見守っていた――。


「ああ! しまった!」


 ふいにジュリが、そう叫んで来た。


「エ? エ? どうしたの?」


 そのジュリの言葉に、ソラはとても驚きつつ尋ねてみた。その言葉に、ジュリはもごもごしてみせる。


「あのぉ……ごめん、忘れちゃった」


「? 何を忘れたの?」


「お金……。もらうの」


「はぁ? ってことは、ただ働き?」

「そう――なるね」


「――」


 その言葉にもはや、ソラは何も言い返せなかった。


「……ま、でも良いか。あのおじいちゃん、とても喜んでいたし」


「うん!」


「それじゃあ、帰ろっか?」


「帰ろう!」



 ――こうして、「夜露図屋」の一日は過ぎていった。


                      完


はい、と言うわけでショートストーリー【夜露図屋】をお届けしました♪

この作品はですね、実は学生時代に作ったものでございます。

ストーリーは登場人物のソラとジュリの双子が営業している「夜露図屋」に次々と依頼、モノを買いに来る人たちのお話。

ほのぼのした作品なので、少し気に入っていたりします。

でも下手でスミマセン。精進していきたいと思います。。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 童話らしい温かなお話でした。 [気になる点] ちょっと残念だったのは、せっかくの「夜露図屋」さんの設定なのに、お店そのものの描写や品揃えの様子があまりなかった点でしょうか。作中も少女達はお…
2014/02/16 08:27 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ