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ヴァンパイアだが、新種のファミコソを始めた  作者: ココロ
序章 ゲームは一日二十四時間になった
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第一話 最近のNPCはおしゃべり過ぎる

 二十文字もあるので非常に悩んだが、結局、名前は「AAA」にすることにした。「ああああ」こそ真の勇者の名前だと思うが、それだとあまりに有名過ぎてありきたりなので、字数を減らしてアルファベットにしてみた。我ながら、ちょっとオサレを意識した感じだ。


「次は容姿だと? ぼうけんのほんを作るだけなのにずいぶん面倒だな」


 我の目の前に、我そっくりのマネキンのようなものが現れた。薄青色をした長方形の画面には「次はキャラクターの容姿を設定してください」と表示されている。最近のファミコソはずいぶん高性能らしく、パーツを選択するのではなく、頭の中で思っただけでそのマネキンが少しずつ変化する。だが、自分の死体を見ているかのようであまり気分は良くなかった。別に変えなくとも良いのでさっさと先へ進もう――と思って決定ボタンを押したら、「プライバシーのため必ずある程度の変更を加えてください」などと怒られてしまった。


「仕方あるまい、適当で良いか」


 白い髪を黒に染め、切れ長の吊り目をやや丸くする。高く通った鼻梁を低くし、痩せた頬に肉を付け。最後に、人にしては白みが強すぎる肌や唇の色を少しずつ濃くしてやれば……東洋人風の平凡な顔の出来上がりだ。会ってから三日もすれば「お会いしたことがあっただろうか?」となってしまいそうな、存在感や自己主張の薄い顔である。


「うおッ!?」


 決定を押すと世界が反転した。黒い視界がたちまちのうちに白に呑まれ、急速に拓けていく。やがてその中心に一際強く輝く白光が現れた。それは波を打つようにして形を変え、人の姿を為していく。聖母か女神か――現れたその人影に、我はかの忌々しい教会に飾られた彫像を思い浮かべた。柔らかな白い衣を身に纏い、慈愛に満ちた表情を浮かべる顔はまさにそうとしか表現のしようがない。


「私はこの世界を統治する神アフロディーテ。新たなる冒険者AAAよ、ここからは私があなたを導きましょう」

「初っ端から案内キャラか。ゲームは全滅しながら自分で遊び方を探すのがいいというのに。まったく、最近のファミコソは丁寧過ぎていかん。スキップだ」

「…………スキップはできません。申し訳ないですが、しばらくお付き合いください」


 最初の大仰な態度はどこへやら、アフロディーテは申し訳なさそうに頭を下げた。その様子からはどことなく中間管理職のような気配がする。まったく、芸の細かいことだ。このよくわからんキャラのために、いったい何キロバイトのデータを使っているのだろう。長い髪が水のように揺れていることからすると、ポリゴンも相当使っているはずだ。


「わかった。で、最初は何をすればいいのだ」

「まずは貴方の進む道を教えてください。私が導いて差し上げましょう」


 アフロディーテがその手に握る杖を振ると、我の前に職業の一覧表のようなものが現れた。剣士、騎士、黒魔導師、白魔導師、錬金術師……ざっと見ただけでも、ずいぶんと大量にある。その文字に触れると、一覧表の横に補正パラメーターが表示された。


「なるほど、このゲームではクリスタルやダルマ神殿に行かずとも転職が出来るのだな」

「……あの、職業についてはパッケージの表に大きく記載されてたはずなのですが……読まれました?」

「問題ない。この手のファミコソはだいたいトラクエかファイファイの派生形だからな。その二つのシステムを知っておればだいたいなんとかなる」

「酷い!? あながち間違ってないですけど、ざっくりまとめ過ぎじゃないですか!?」


 驚いたような顔をするアフロディーテ。見た目の割にずいぶんとノリがいい。こてこての関西人のようだな。それよりも、普通に会話が成り立ってしまっているのだが一体どういうことなのだろう。ゲームのNPCといえば「○○村へようこそ」とか「武器や防具は装備しないと意味がないぞ!」ぐらいのことしか言わない気がしていたが――そうか、社員が操作しているのだな。だからファミコソのくせに通信回線が必要なのか。


「……いろいろと変なことを言ってしまってすまなかったな。申し訳ない。これからは素直に指示に従うので、仕事を頑張ってくれ」

「いろいろと勘違いされているようですが……まあいいでしょう。職業はお決まりになりましたか?」

「剣士で頼む」

「了解しました。では続いて、初期スキルの選択に入りましょう。この中からお好きな物を三つ選んでください」


 現れたのは、またもや大量の文字が並ぶ画面だった。最初のページにあるだけでもざっと百以上はスキルがある。しかも、それが2、3頁と続いていくのだから恐ろしい。一体何種類あると言うのだろうか。こんなに品揃えが豊富では逆に困ってしまうではないか。


「一体何種類あるのだ、これは……!?」

「初期スキルだけで約三百存在します。そこから派生していくスキルや、特定の条件を満たすことで習得できるスキル、さらに上位職の職固有スキルなども有りますので習得できるスキルの総数はざっと一万種類ほどありますよ」

「なんだそれは、頭が痛いぞ!」

「ソードギアオンラインの最大の売りはこの自由度の高さですので」

「むう……!」


 顎に手を当てて、じっくりと考える。そうして十分後。長考の末に我は、一つの結論を出した。


「決まった。踊りとロッククライミングとカラテだ」

「戦闘系のスキルがカラテしかないようですし、剣士ともマッチしてませんけど……本当にそれで構いませんか?」

「ああ。踊りは『つるぎのおどり』を習得するのにおそらく必須であろうし、ロッククライミングは移動用だな。あと、カラテは純粋に強いからだ」


 以前、教会が送り込んできたゲルマンカラテのマスターなる人間と戦ったことがあったが、奴は鬼神のように強かった。人の身でありながら、タイガー戦車の装甲を素手でぶち抜いたのだから恐れ入る。教会関係者なのに聖水を所持していなかったという致命的な失敗さえなければ、我も負けていたかもしれない相手だ。ただの人間が極めただけであそこまで強くなるのだから、カラテは強いに違いない。


 アフロディーテは何やら疲れたような顔をしたが、こほんと咳払いをして元の凛々しい顔へと戻った。そして杖を振り上げると、朗々とした声で叫ぶ。


「……わかりました。では、はじまりの町に転送します。あなたの冒険に幸あらんことを!」


 迸る光、白い中へと消失していく世界。こうして我は、ようやくファミコソの大地へと降り立つ――。

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