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ヴァンパイアだが、新種のファミコソを始めた  作者: ココロ
序章 ゲームは一日二十四時間になった
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プロローグ ヴァンパイア目覚める

 光陰矢のごとしとはよく言った物で、人の世の流れというのはまことに早いものである。

 我が寝ている間に時代は進み、ファミコソの中に入れるようになっていた。

 世間ではこれを、VRMMOなどと言うらしい。


 一九九九年、七月。我を『恐怖の大王』なるものと勘違いした教会の連中と壮絶な戦いを繰り広げた後、手酷い怪我を負った我は日本の隠れ家で眠りについた。目覚めるのは十年後の二○○九年。きちんと目覚ましもセットしたはず――だったのだが、乾電池が途中で切れてしまったようである。我としたことが、電池が切れる時間を考慮できなかったとは不覚。おかげで五十年ほど眠ってしまった。


 荒れ放題だった屋敷を掃除すると、情報収集のためにコンピュータを立ち上げる。教会の眼があるので基本的に外を出歩けない我は、最近ではインターネッツをよく利用する。ちょっと前まではパソコン通信で頑張っていたのだが、ドアーズ98が出たので乗り換えてみた。使いやすいうえに、回線も十年戦士の音響カプラからアナログモデムの直接接続にしたので驚異の128kbps! 以前に比べて十倍以上速くなったので重宝している。


「うぬ……接続できぬだと?」


 見た目は壊れていなかったのだが、さすがに年月がたち過ぎていたようだ。インターネッツに接続しようとした途端、ブルースクリーンが出てしまった。仕方あるまい、家から出ることにしよう。黒服、黒マント、黒サングラスの全身防備に身を包むと、山の上の屋敷を後にする。


 元は人里離れた山奥にあったはずの我の屋敷であるが、麓に町が出来ていた。宅地造成が進んだ結果、離れたところにあった市街地がここまで浸食してきたらしい。山々の合間に出来た氷河のごとく、灰色のビル街が緑の大地へと深く食い込んで来ている。時代が進んでいるのを象徴するかのごとく、背の高いビルが多い。ついこの間までは、霞が関ビルぐらいしか高層ビルなんてものはなかったのだが――恐ろしい変化だ。


 電気屋を求めて、見知らぬ街を彷徨う。そんな我の姿が珍しいのか、人々の視線がこちらへと集中する。口元に軽く笑みを浮かべた彼らの姿は、上野のパンダでも見ているかのようだった。我はランランでもカンカンでもないぞ。高貴なるヴァンパイアである。あんな畜生どもとは、格が違うというに。


 人間どもに対して苛立たしく思いつつも、行き行きて駅前。パチンコ屋さながらの目立つ看板を掲げる大きな電気屋があった。その自動扉を潜り抜けようとして、ふと我は隣に置かれていた看板に眼を奪われる。


『ソードギアオンライン、好評発売中!』


 ま、まさかついにトラクエ7が出たのか!?

 ……いや、違う。看板の絵柄は写真のようにリアリティーのある美麗なもので、どちらかと言えばファイナルファンタジア寄りだ。第一、名前が全く違う。ソードギアまではわかるが、オンラインとは何なのだ。ファミコソ神拳を極め尽くしていた我でさえ知らぬぞ!


「おい、そこな店員よ」

「はい?」


 髪を茶に染めた、いかにも軽い雰囲気の男がこちらに振り返った。年はだいたい二十歳前後と言ったところか。おそらく、正社員ではなくて学生のアルバイトであろうな。


「このゲームは何なのだ? オンラインとは、如何に?」

「ああ、これっすか? 最近流行りのVRMMOっすよ。めちゃくちゃ売れてるし、俺もやってます」

「ぶいあーるえむえむおー?」


 さらにわけのわからない単語が出てきた。我は眉を顰めると、店員の顔をジロリと一瞥する。すると彼は、おいおいと呆れたような顔をした。


「イヤだなあ、お客さん。超話題になったじゃないっすか。知らないんですか?」

「……知らぬ」

「マジッすか。えーっと、VRMMOって言うのはですね、専用のヘッドセットを使うことでゲームの世界に居るような感覚を体験できるゲームなんっすよ。特にこのソードギアオンラインは、マジ半端なくリアルっすから! 一度体験してみると感動しますよ!」

「ほう、つまりファミコソの中に入れると?」


 店員は何故か『ファミコソ』という言葉に首をひねりつつも「だいたいそうっすね!」と答えた。ファミコソの中に入れる……うーむ、カニ歩きしかできないのも「はい」か「いいえ」しか言えないのもちと困るな。けれど、ぱふぱふが体験できるのは……いや駄目だ、結局あれはオヤジだったではないか。


「……いくらなのだ」


 とりあえず、値段を聞いてみることにした。ファミコソに入れるなど、相当値が張るに違いない。すると店員は、待ってましたとばかりに胸を張る。


「本体込みで六万五千円っす!」

「ぬう、意外と安いな」


 財布を引っ張り出して、中身を確認する。諭吉が七人に漱石が五人。消費税をプラスしても買える金額だ。さて、どうしたものか……。我は基本的に外を出歩かないから家で過ごす。一日中できるゲームは暇つぶしに最適だ。この分だとおそらく、我自慢のスーファソとファミコソは壊れているだろう。それを買い替えることを考えれば――本体込みで六万五千円は安いかもしれない。


「……買おう」

「毎度ありっす! そこのレジで支払いをお願いします!」


 レジで諭吉を出した我は何故か不審な顔をされつつも、どうにか買い物を終えることが出来た。「諭吉とか初めて見た……」と店員が苦笑していたような気がするが、最近になってまた人が変わったのだろうか。今思えば、太子が懐かしい。


「さあ、やるぞ!」


 自宅へ帰ると、すぐに我は棺桶の中で横になり、ヘルメットのような形をした本体を被る。説明書にやたらと細かいことが書いてあったが、とりあえずこれを被って横の電源ボタンを押せばいいらしい。カセットはどこにあるのだと思ったが、何でもあらかじめダウンロードされているんだそうな。高性能のフロッピーでも中に入っているようである。


「ネットワークへの接続が必要?」


 最近のファミコソは回線が必要なのか。やれやれ、面倒だ。我は玄関先に置いてある黒電話を引っ張り出して来て――はたと気付く。回線が必要などと言う割に、このマシンにはモデムと接続するための接続端子が一切ないではないか。もしかして、無線なのか。いや、無線と言うよりも最近出てきたショルダーフォンに近いタイプなのか?


 説明書を読んでみたが、さっぱり要領を得なかった。得体の知れないIT用語が蠢いている。わかりやすく日本語で書いてほしい物だ。これでは宇宙言語ではないか、全く読めぬぞ。


「やむを得ぬ、電気屋に電話してみるか」


 仕方ないので電話してみると、回線の工事が必要だなどと抜かされた。電話回線はきちんと引いていると何度説明しても、それでは使えませんの一点張りだった。我が家はへき地にあるので、工事費用は占めて二十万飛んで五百八十円。ファミコソをプレイするためなのに、とんでもない金がかかってしまった。けれどまあこれでインターネッツも飛躍的に速くなるとのことなので、初期費用として見れば仕方なくも――ないかもしれない。


「ではあらためて、やるぞ!」


 棺桶の中で叫ぶ我。こうしてようやく、我の勇者としての冒険が始まった――と思ったが


「キャラクター設定とやらがあるのか? 何、名前が二十文字までOKだと!!!!」


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