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第八話




 

「で、だ。女神さんよ」

「樹里亜って名前で呼んで」

「……で、樹里亜さんよ」

「アタイにツラ貸せとか、トンだお笑い種だよ」

「お前やっぱり自分の名前に年齢の……って、やめだやめ!」

「あら残念。最後まで言ったら、今度は髪留めを外そうと思ってたのに」

「撃つつもりか。撃つつもりだったのか! 俺の心臓を狙うつもりだったのか!?」

「これが本当の樹里亜にハートブレイク」

「ぶはっ!?」


 初めて樹里亜のネタで笑ったことが悔しいので、ダイジェストでお送りしてみた。

 極めて遺憾である。


 年齢ネタで返ってくる反応は、今後のなろう作家人生に関わるほど危険であるため、できる限り減らしていきたいところだ。


 しかしまだまだ続きそうな予感はある。

 

 奴はいま澄まして紅茶を飲み自然な振る舞いを保っているが、左手はやたらと荒ぶっていることからも容易に想像できるからだ。今日一番のクッション連打である。持ちネタが炸裂して相当嬉しいのだろう。 


 俺にしても、メルヘンだヤンデレだといったところで、こっそり喜んでいるような控えめな女は嫌いじゃない。


 どうせなら我慢できないくらい感情を爆発させてみたいと思ったりするのだ。


 ……なんだかドツボにハマってきたような気もしないではない。




 三個目のケーキ、シュガーパウダーをまぶしたシュークリームを食べてまた仕切り直しだ。甘党で悪いか。こいつの出すケーキはやたら美味いんだよ。


 もう数年は笑うことを忘れた座敷牢の少女のような無表情に戻っているということは、もう怒りを感じてはいないのだろう。しかし、ああいう地雷は後に響くため慎重に空気を読んで問いかけた。


「結局のところ、俺は死んでないんだよな」


「ええ。死んでいませんね。地上では今のところ行方不明でしょう」


 前髪をいじりながら答える樹里亜。


 とりあえず、こいつは後ろ髪もあるので幸運の女神ではないことは確かだ。いやもうそんなことはわかりきった事実だが。


「もちろん行方不明のまま終わらず、ちゃんと帰ることだって出来ますよ」


「ほう」


 それは朗報である。


「時間は戻りませんけど」


 それは悲報……でもないか。遊んだ時間を返せといって返す奴はいない。


「まあ家賃もろもろは全部引き落としだし、貯金もあるからしばらくはいいけどよ、無くなったら追い出されるじゃねーか」

「どうせ居なくなってからは、あの妹さんが払うでしょう」

「そういうことさせたくないから言ってるんだよ」

「いいじゃん。貢がせれば」

「おまえはデビューしたての新人に助言する古株ホストか!」


 ああケーキ持ちながらクッション叩くな喜ぶな落ちる落ちるケーキが落ちる!





 今更なんだが、この時点でもう今すぐに戻してくれとお願いするつもりはなかった。

 これまでの空気をぶち壊して必死に嘆願すれば戻してくれたかもしれないが、習いは性になるというか、これまで散々適当に生きて面白カッコイイことを探し続けてきた人生だ。

 異世界召喚。

 これは面白いことか? そしてカッコイイことなのか?

 そんなもん当然YESだ。 


 異世界へ行くことなんて、むしろ「待ってました!」と言いたくなるほどだ。


 問題は、これまで背負ってきた人生を投げ出すことである。


「まあ期間は長くて1年。その間の現実世界の問題は私が解決しておきましょう。適当に」


「おい、最後に本音出てるぞ」


「いいんです。ちょっと粗が出ていたほうが、戻ってから現実社会へ復帰する際に色々と思い出すきっかけになるでしょう?」


「どれだけの粗にもよるけどな」


 と口では言いつつ、案外しっかりやってくれそうな予感はしている。


 むむう?


 こいつのことを無意識に信頼しはじめている自分がいることに衝撃を受けた。


 こんな奴に!?

 

 ヤンデレか中二病かメルヘンかもわからない奴に!?


 15才だか40才だか80才だかわからないババアに!?


「きゃんどおーるーうーうう、らいーいいーとぅおーぐあーああー、がらーすーうーのーぴあーすうー……」


「歌はやめろ。銃もしまえ。お前は髪をまとめていた方が魅力的だ」


 おもに俺の命的に。


 おそらく持ちネタに関連した歌だろう。詩吟みたいな詠みかただったが銃を取り出したところで気がついた。


 でも俺、暴言を口に出して言ってないよな?


「なんか嫌な予感がしたので」


 神様だって女の勘は働くらしい。そう答えながら髪を整える樹里亜は顔が真っ赤である。


 また、こういう時はクッションを叩かないらしい。

 




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