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第四話




 あのあと、逃げようとした俺に銃口を向けて泣き出したヤンデレ。理不尽さに苛立ち、「つかジュリアて。キラキラネームが世に出る前に流行った外人ネームの中でも一番痛々しいな」とうっかり発言。

 今日二度目の破裂音をいただく。

 「よし、落ち着こう。今日は何曜日だ?」と冷静さを求める俺に対し「逃げるな。座れ。頭撫でろ」と意味不明な要求してくるなど、あまり思い出したくない出来事が色々あったが諸事情により端折ることにする。


 でも俺の脇腹をかすめたことは忘れない。絶対にだ。





 女神かどうかは置いとくとしてだ。

 胸元のポケットから取り出した薄っぺらいカードを操作すると、テーブルとソファーを出現させていた。

 床がじわじわと変形していく様を見て、この空間内を把握している存在であることは理解した。


 この時点でそろそろ地球の常識を持っているのがバカバカしくなってきた。

 もう手放してもいい頃合かと思うし、同時に意識と泌尿器の管理も手放したいところだ。



 今は三人はゆうに座れる濃い桃色のソファーの真ん中を陣取り、紅茶を飲みながらオペラケーキを堪能している状態だ。


 美味しいケーキに罪はない。


 対面に座った中川樹里亜(自称女神)も落ち着きを取り戻したのか、静かに紅茶を楽しんでいる。


 精一杯の譲歩でもって、お互いに全部忘れて仕切り直しをしようということになった。

 ということにしたのだ。

 ということにするしかなかったのだ。


 逃げる場所なんてそもそもなかったしな。


 譲りすぎたきらいがあるものの、クッションをぼすぼす殴りながらながら「こんなはずじゃない。こんなはずじゃない……」と落ち込む女に何を言えっていうんだ。


 それにまあ、奴は切り替えが早いようで、俺がケーキを食べている間に出会った当初の無表情を取り戻した。

 僅かに唇の端を上げてもいる。

 兵士の命は消耗品とでも言いそうな冷笑だ。

 


 ともあれ、なにやらお話があるらしい。

 そりゃそうだ。俺だってそれが聞きたくてここに来たんだしな。


 そしてまた沈黙が訪れたのである。


 いや、言い出そうとはしてるんだが、言葉を選んでいる素振りが見える。

 何度か言い出そうとしながらまた紅茶を口に含む。


「みんながやれというからやりました」


 ようやく出てきたのがこの言葉である。


「だからなんで話を端折るんだよ! そして不貞腐れるな」


 社会人の女が膨れっ面なんかするな。許してくれるのは優しい彼氏くらいだぞ。

 

 それに「やれ」とはどこに掛かってる言葉なんだよ。

 銃か。

 銃だな。

 銃に掛かってるんだな!?


「ここは死者と生者の狭間。アストラル・ランド」


 ヤンデレが中二病であることを知ってしまった。


 知りたくもない衝撃の事実である。 


「あなたはいま、生きてはおらず、そして死んでもいない。全ては私の指先一つで運命が決まってしまうの。あなたは私と悠久の時を過ごし、私の全てを見て、私の全てを受け入れなければならない」


 ヤンデレ中二病がメルヘン病まで宿していたとはまた知りたくない事実であったが、もうなんか納得してしまった。


 興に乗ったのか、両手を広げさらなる言葉を繋げる。


「セフィーロー…ト、の樹と、盟約が、第三天使が確か……」


 確か、とか言っちゃった。単語の発音が曖昧で繋がりもバラバラだし、普段言い慣れていない証拠だろう。


 まさかの偽装中二病疑惑である。


「うぅ……」


 口が固まった。中二セリフがどこまで続くか少し期待していたんだが。

 狙いはさっぱりわからないが、ここは手助けするべきか。


「ええとだな、なんか決まりがあるかもしれんが、思い出せないようなら自分の言葉で話してくれないか?」


「うん……」


 また落ち込ませることになったが、今度こそ、俺は悪くないよな?


 ああもうまたそこクッション殴らない!




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