第2話 戦いの前夜
サイオウド王国の街をキルのうわさは駆け巡るように広まって行った。サイオウド王国の南の街「エナン」から、北の町「ホック」まで数日とかからなかった。キルがいる首都「レイサ」に向けて各街の援軍が動く始めた。結果、キルは頭を悩ませる結果となった。
「ちっ、まずいな・・・。」
とキルが呟くとフォーも返してきた。
「派手に動き過ぎましたね。」
「あぁ。少しやりすぎたな。」
と言ってすぐに、後ろを振り返った。
「ちっ、援軍だ」
首都付近に大きな街が集中しているのは、サイオウド王国に限ったことではない。むしろ、普通だ。
今回の敵は多かった。数で言えば、約50人程度だ。魔器を使えばこんな数はへっちゃらなのだが、魔器は身体エネルギーを使用するため、何回も使ってはいられない。しかも、先ほど、大技を使用したばかりである。しかも今回は手の込んだ武器が多かった。遂に、魔性石を使って来るようになったのだ。
魔性石、それは字の通り、魔法の性質をもった石である。このあたりで言うとサイオウド鉱山から雷の魔性石が採れるのだが、相手の持っているのは、水の魔性石だった。つまりもうキルが火を使うということを知っているのだ。
「噂ってのは恐いもんだな。」
と、それを見たキルは呟くのだった。
「逃げないのか?」
とフォーが聞くとキルは
「あぁ、相手は名前と顔が一致しないから俺のことを分からない。分かるのは門番兵だけだからな。」
と静かに、援軍に聞こえない声で言ったのだった。
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一方の王国の首都、「レイサ」の中心部に大きくそびえたつ城では、「対キル会議」が開かれていた。スーツ姿の真面目そうな男は説明を続ける。
「首謀者の名前はキル。18歳です。目撃者によると5日前に門より入ってきたと。しかし、門兵が書かせた名前のリストには入っておらず・・・。」
ここで体の大きな男が説明に割って入った。
「名前がないって、そりゃどういうことだ、エルガ。」
エルガは頭を抱えた。なんでこいつはそんなこともかんがえられないのかと。その様子を見た、女性がエルガの代わりに答えた。
「偽名ってことですね。」
「そうだ。普通、こんくらいは考えられるだろう、ザード。」
ザードは
「あぁ、そういうことか・・・。」
と顔を少し赤らめながら言った。
「と、いうことは勿論・・・。」
と言ってエルガは門番兵の方を向いた。門番兵はこくりとうなずいて
「完全にキルと言う男を見失いました。」
と言った。
「あぁ、もう!探しようがない。」
と怒りの様子のザードにエルガは言った。
「こうなったら、師匠の力をおかりするしかないな。」
「師匠ならあんなやつは一日もかからないだろう。」
「だが、師匠の説得に時間がかかる。説得できるまでにどれくらいかかる、ワイザ?」
と急に振られたワイザは
「えーと、5日くらいです。」
と答えた。そのワイザの後ろで男がにやりとほほ笑んだのだった。
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「城に入るまでどれくらい時間がかかる、キル?」
とフォーが尋ねた。キルは考えていた。
「おい、キル?」
「あ、あぁ・・・。5日くらいだろうな。」
とキルが答えると後ろから手が伸びてきて、キルの肩に触れた。
「くっ。」
キルは大きく距離をとって、刀を抜く。が、その手の正体を知ったキルは刀を腰にしまった。
「相変わらず、反応は素晴らしいな。」
「あぁ、昔からの癖でな。で、何か分かったことはあるか?」
「あるに決まってんだろ。じゃ、話していくからしっかりと頭の中に叩き込めよ。」
と言って男は話し始めた。
それからは15分くらいずっと男が一方的に話していた。
「まず、敵はこの王国の中だけで3000人、流石、力のある国の首都の兵力と言っていいだろう。援軍予定の人数は、800人だ。既に到着が70人ってとこか。で、王国の守護兵が200人、お前を探すための兵が約150人。」
「そうか・・・。」
「まぁ、こんなところだ。また分かったことがあったら報告する。」
「あぁ、サンキューな、シック。」
「ん?そうした?お前らしくないぞ。困った時はお互いさまってやつだ。じゃあな。」
「じゃあ。」
こうして2人は別々の方向に歩きだした。
これから、王国とキルの情報戦が始まるのだった。
次回予告
次回、キルと王国の情報戦が幕を開ける。
キルを探す、王国側、城に入る機会をうかがうキル。
彼らの壮絶な戦いの火ぶたが切って落とされる。
最後に笑っているのは王か、それともキルか