8話 デントン家
先代伯爵様に結婚の許可をもらったあと。
話し合いをするなら早い方が良いと、私とクロード様はさっそくソールズ伯爵家の隣家で私の家。
デントン家へいくことにした。
私たちを玄関で出迎えた執事に、両親がどこにいるかをたずねると──
「旦那様と奥様は居間にいらっしゃいます」
「そう。それでお姉様は見つかったの?」
「はい、ビオレータお嬢様。マグノリアお嬢様は今朝早くに戻られ、今はご両親とおられます」
「……お姉様には呆れたわね」
(本当になんて人騒がせな人かしら)
この複雑な状況の原因を作ったお姉様に、さすがに今日ばかりは笑っていられない。
私は執事の前でイライラとする気持ちを隠せなかった。
そんな私の背中をクロード様はなだめるようにトンッ、トンッ、とたたく。
「ビオレータ?」
「ごめんなさい、クロード様」
(お姉様も私自身もたくさん迷惑をかけて)
姉妹そろってクロード様に迷惑をかけたことを謝った。本当にいくら謝っても足りないぐらいだ。
「うん。もう怒っていないと言っただろう? 君はこれ以上、謝らなくて良いよ」
「はい」
(これ以上、クロード様に優しくされたらまた泣いてしまいそうだわ)
「それよりもだ…… マグノリアとご両親がそろっているなら、ちょうど良い」
「ええ」
初夜をともに過ごしたせいか、私とクロード様に不思議と一体感が生まれていた。
淑女教育を受け始めたころからクロード様に引かれていた境界線が崩れ、グンッ…… と気持ちが近づいた気がする。
嬉しいと喜びたいところだけど。クロード様がこれから解決しなければいけない苦難を想像すると、とても無邪気に喜べない。
(私がもっとしっかりして、クロード様をささえないと!)
「さてと、ビオレータ。家出娘の説教に行こうか」
「はい、クロード様」
差し出された手を取り、私はクロード様のエスコートで我が家の居間へ向かう。
先導した執事が扉を開き私たちが居間へ入ると……
お姉様がティーカップを持つ手の小指を立てて、優雅にお茶を飲んでいた。
不機嫌そうな顔をしているのを見ると、お姉様はすでに両親から散々説教をされたあとなのだろう。
お姉様は私たちに気づくと、自分の悪戯が成功したのが嬉しいのかニヤニヤと笑った。
「あら、来たのねクロード。ビオレータも。二人ともずいぶん来るのが遅かったわね?」
「お姉様…っ…!」
お姉様の言い方に怒りが込みあげてきた。今にも癇癪を爆発させそうなったけど、ギリギリと奥歯を食いしばり自分を抑えた。
クロード様はそんなお姉様を無視して、私の両親に向って丁寧にあいさつをした。
「オルランド卿、デントン夫人、おくつろぎのところをお邪魔して申し訳ありません。昨日の結婚式のことで、いくつか問題がおきましてご相談に参りました」
お父様は顔を真っ青にしてソファから立ち上がる。お母様もお父様と一緒に立ち、顔を強張らせている。
「ああ、クロード卿! こ… こちらこそ申し訳ない。そ…その、もっと早くマグノリアが見つかると…思いまして…その……」
真っ青だった顔色が真っ赤になり気の小さなお父様はこの事態に、今にも倒れそうなほど動揺している。
「クロード様… 座りましょう?」
「ああ、そうだね」
私はクロード様の手をひき、両親の向かいがわに並んで腰をおろした。お姉様は斜め横の一人がけのソファに座っている。
「……それで、お姉様はどこにいたのですか?」
「屋根裏部屋にいたわ。ふふふっ…… 上手く隠れたでしょう? 窓から客間を抜け出したから、みんな外ばかり探していたけど。使用人用の階段を使って上がったの」
こんな大胆なことを簡単にできるお姉様が、羨ましいと思っていたけれど。得意げに話す姿にはうんざりした。
時と場合を選ばなかったお姉様に、今は嫌悪感さえ感じる。
「マグノリア…… 君は自分が何をしたか、わかっているのか?」
「なによ、クロード。あなたがいけないのよ?」
「君がどれだけビオレータに迷惑をかけたか、理解しているのかを僕は聞いているんだ」
怒鳴り散らしてもおかしくないところなのに。クロード様は紳士らしく、とても穏やかな声でお姉様にたずねた。
隣にいた私はクロード様の顔を見て、ブルッ… と震えあがった。
「……っ!」
(顔はほほ笑んでいるけれど…)
すぐ近くにいるから良くわかる。クロードの瞳が、ものすごく冷たい氷の刃のように光っている。少しも笑っているようには見えない。
さすがにクロード様の怒りをお姉様も感じ取れたらしい。
「そ、それは…… 優しいビオレータなら許してくれるわよ! ね? ビオレータ、そうでしょう?」
顔を強張らせて、助けを求めるように私を見るけど。
「マグノリアお姉様……」
(お姉様、ダメよ。激怒しているクロード様に、そんなことを言っては逆効果だわ)
こんなに怒ったクロード様を見たのは、大人になってから初めてだった。
『お姉様、素直に謝って』 …と私は首を横にふり、お姉様にサインを送った。
私の反応を見てお姉様の顔が青ざめた。
普段なら『仕方ない』と家族だから許されていたけど。私も今日はそんな簡単に許す気にはなれない。
かん高い声で、お姉様はこの場にいる人たちから同情心を引き出そうと、言いわけをする。
「で… でも、悪いのはクロードでしょう? クロードはいつも私に、“婚約者ならビオレータのように礼儀正しくしろ” とか… “ビオレータのように大人になれ” とか… とてもひどいことばかり言うのよ!」
「マグノリア… それは君と違って、ビオレータが立派な淑女だからだよ」
ハァ───ッ… とクロードは大きなため息をつき、マグノリアを威圧するように、腕組みをしてにらみつけた。




