5話 初夜2
窓際のテーブルに一本だけ置かれた蝋燭の炎が、窓から入る隙間風でユラユラとゆれていた。
クロード様の寝室は初夜をむかえる新婚夫婦のために、明かりは薄暗く保たれていて、それがとてもロマンチックに見える。
初夜のムードづくりにはピッタリの演出だけど。静かに一人でいると強い眠気を誘う明るさだった。
「疲れたわ…… 早く眠りたい。もう、嫌……」
(とにかく疲れた。声を上げてわっ…… と泣き出したいほど、何もかも疲れたわ)
クロード様は招待客たち一人一人に挨拶をしていたから。引き止められて寝室へ来るのは遅くなると、お母様が言っていた。
結婚式の準備をしている時からずっと緊張していたせいか、私はベッドに腰を下ろしたとたん──
ドッと疲れに襲われた。
「疲れていても、私には一番重要で難しい仕事が残っているわ。しっかりしないと」
(クロード様に私が犯した罪を知られて、私はきっと嫌われるわ)
お姉様が家出したことを、クロード様に説明しないといけない。
私もお姉様のように逃げ出したいけど。これ以上、卑怯者になりたくないしクロード様を困らせたくない。
沈鬱な気持ちがあまりにも重くてうつむくと……
ラベンダー水をふりかけたベッドから、フワリと優しい香りがして私を誘惑する。
「少しだけ横になりたい。クロード様が来るまで、少しだけ……」
私はベッドの誘惑に負けて寝転がった。深く呼吸をしたら私はそのまま眠りに落ちた。
誰かに頬をなでられて、私は不意に目が覚めた。
「……んん?」
ベッドの上に転がったまま、寝ぼけた頭でぼんやりとしていると──
クロード様が私に覆いかぶさるように顔をのぞきこんだ。
「あっ!」
(クロード様⁉)
私の寝ぼけた頭はいっきに覚醒した。
薄暗い部屋の中で蝋燭の明かりを背にしたクロード様の顔は影になり、表情がわからない。
「なんだ、起きていたのか? ……まぁ、ちょうど良いか」
「あ、あの……」
クロード様は私の唇にキスをした。
「……っ!」
ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! と私の心臓が胸の中で激しく暴れ出す。
クロード様の唇が私の唇から離れても、あまりにも驚いて言葉が出ない。
カサついた指先でクロード様は私の唇をゆっくりとなでて……
「もう一度だ。もう一度キスしても良いか?」
「……」
驚いたけど、私は何も考えずに小さくうなずいた。私の唇に触れていたクロード様は、ふたたびキスをした。
最初のキスよりも長く…… ジワリと心を蕩かすような、クロード様の温かい唇に私は夢中になった。
頭の奥で何かがパチンッ! と弾けた。
「クロード様……っ! クロード様……っ!」
(愛してます! あなたを愛してます!)
終わらせるはずだった恋心が、大きな叫び声をあげた。
お姉様の結婚式でボロボロになるまで傷ついた恋心は、不意打ちのようにされたクロード様のキスに狂喜する。
うす暗い寝室で──
姉の身代わりとなった私は…… 姉の初夜で、姉の夫に純潔を捧げた。




