4話 初夜
結婚式が無事に終わり神殿からソールズ伯爵邸の舞踏室に場所をうつして、結婚式に招待された客たちはダンスパーティーを楽しんでいる。
本当の花嫁のマグノリアお姉様は、今もまだ見つかっていない。おかげでお父様は顔を青くしたまま、招待客たちの相手をしていた。
花嫁役の私は初夜の準備のためにお母様と一緒にダンスパーティーを途中で抜け出し、クロード様が用意してくれたデントン家の控室にいた。
「ハァ──……」
(疲れたわ)
キツイ香水の香りとベッタリと濃くぬったお化粧をきれいに落とすと、不思議と身体が軽くなりため息が出た。
胸の中は神殿にいた時と変わらず、惨めさでいっぱいだったけど。
お母様がお姉様のために用意した外国産の貴重なレースで飾られた、純白の夜着に着がえて鏡の前に立つと……
そこにはぼんやりとした暗い表情の私が立っている。
「嘘つきの顔。醜いわ……」
(自分が招いたことだもの。こうなって当然だわ)
鏡にうつる私は見るからに不幸そうな顔をしていた。
私の着替えをお母様が一人で手伝い『最後に娘と大切な話をしたいから』と──
着がえを手伝いに来たソールズ伯爵家の使用人を、部屋から追いだしてしまった。
だから私がお姉様の身代わりだと、ソールズ伯爵家の人たちはいまだに誰も気づいていない。
「本当にマグノリアには困ったわ! どうしましょう。さすがに初夜までビオレータに身代わりをさせられないわ」
「そうね……」
急にオロオロとするお母様に私は、何度目かのため息が出る。
「でも、使用人たちが見ているし。花嫁が夫の寝室へ行かないのは、使用人たちも変に思うから……」
「ええ……」
「だからね、ビオレータ。あなたは初夜をむかえる花嫁として、寝室へ行ってほしいの」
お母様はもじもじと手のひらを、しきりにこすり合わせながら言った。
「はい」
(ああ…… 私は最後まで、花嫁役をしなければいけないのね?)
「それでつまりね…… クロード様が寝室に来たら、マグノリアが家出したことをあなたから説明してくれるかしら?」
「はい」
(こんなことをした私は、きっとクロード様に軽蔑されるでしょうね)
「その後のことはクロード様にお任せすれば、きっと上手くやってくれるわ」
「そうですね」
お母様の計画を受け入れたのは私自身だから、何もかも自業自得だけど。でも、やっぱりマグノリアお姉様を許せない。
私がどれだけ望んでも手に入れられないクロード様の愛を、お姉様は持っているのに。こんなふうに粗末にするなんて許せない。
「ごめんなさいビオレータ! あなたにばかり苦労をさせて。もっと簡単にマグノリアが見つかると思っていたのに……」
「ええ、わかっているわ。お母様」
「あの子はいつも子供みたいな悪戯をするけど、大きな問題になるようなことは今までなかったから……!」
「ええ……」
(大切な結婚式の直前でいなくなったこと自体が、大きな問題だと思うけれど?)
私はすでに結婚式で傷つき疲れ切っていたから、何もかもどうでも良くなっていた。自分でも驚くほどお母様に冷めた返事しか返せない。
たぶんお母様は、私に優しい慰めの言葉を期待しているでしょうけれど。この数時間で心が乾ききった私には、人の心配をする余裕なんてなかった。
「私もお姉様も…… クロード様に叱られるでしょうね」
(嫌われて憎まれたほうが…… クロード様を早く忘れられるかもしれないわね)
幸か不幸かクロード様がお姉様に向ける愛情を、すぐ近くでこの目で見たから。ようやく私はクロード様への恋心を、捨てることができそうな気がする。
怖いけど、早く終わらせたい。花嫁の代役も…… 私の恋も……
夜着の上に足首まであるローブを着て、私はふたたび花嫁のベールを頭からかぶって顔を隠した。
心配そうに私を見送るお母様をその場に置いて、呼び寄せたソールズ伯爵家の使用人に案内され初夜のためにクロード様の寝室へ行く。
薄暗い部屋の中で、一人静かにクロード様が来るのを待った。




