1話 姉の手紙
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全14話の短編です。
楽しんでいただければ幸いです(・´з`・)
私の姉マグノリアには子供のころから幼馴染みの婚約者がいた。婚約者の名前はクロード様。
クロード様は少し前に爵位を継いで、今ではソールズ伯爵となられた。
今日はソールズ伯爵領にある小さな神殿で、そんな二人の結婚式がおこなわれる。
デントン家は朝から結婚式の準備で、誰もが忙しそうにしているなか。
花嫁の妹の私、ビオレータだけがとても複雑な気持ちでぼんやりとしていた。
「……はぁ。嬉しいような?」
私としては子供のころから大好きな年上の幼馴染みが、義理のお兄様になるのだから喜ぶべきことなのだけど。
「胸が痛んで、苦しくて…… 複雑だわ……」
大好きな初恋の男性が姉の夫になってしまうのが、とても悲しくて胸が張り裂けそうになる。
「笑わなければいけないのに、うまく笑えない」
マグノリアお姉様の結婚式だから、心から祝う気持ちはある。でも笑おうとすると、かってに涙がこぼれそうになり困っていた。
「ハンカチを3枚はよぶんにポケットへ入れておかないと。きっと後で足りなくなるわ」
ずっと前からクロード様への恋心を忘れようと、努力を続けてきたのにまったく意味がなかった。
むしろ忘れようとすればするほど、胸の痛みが強くなって自分がどれだけ彼のことを好きなのか自覚するばかり。
今もクロード様が大好きだ。記憶喪失にでもならないかぎり、恋心が消えることはない。
「でもお姉様と結婚したら、私の愛が少しはうすれるかしら?」
ハァ─…… とまた大きなため息が出てしまう。
結婚式に出席するため用意したさわやかな水色のドレスへ着替えて、私は姉の準備がととのうのを一人さびしく居間で待っていると……
青い顔をしたお母様が、あわてて私のもとへやって来た。
「まぁ! ビオレータ、こんなところにいたのね? ちょっといらっしゃい!」
「どうしたのですか、お母様?」
「とにかく、いらっしゃい! ビオレータ!」
「はい?」
さっきは『あなたはボンヤリしていて、邪魔になるから居間で待っていなさい』と、お姉様の準備を手伝おうとした私を、お母さまが追い出したのに。
(んん? 何かしら……?)
こんな時でも、おっとりとした性格の私が首を傾げてゆっくり考えこんでいると。
「とにかく、早くいらっしゃい。ビオレータ!」
「ああ、はい……?」
お母様に腕をつかまれ私はものすごい力でグイグイと引っぱられながら、マグノリアお姉様が花嫁の準備をしている客間へつれて行かれた。
バタンッ! とお母様にしては乱暴に客間の扉を閉めると、私を急かした。
「さぁ、ビオレータ! 急いでそのドレスを脱ぎなさい!」
「え⁉ お、お母様。どうしたのですか?」
「とにかく早くドレスを脱いで! 時間が無いの!」
いつもは穏やかなお母様がまるで悪魔のような怖い顔で、私にドレスを脱げとせまってくる。
私はお母様の迫力に負けて、わけもわからずうなずいた。
「は、はい」
(なんだか怖いわ、お母様。いったい何がおきているの?)
私が水色のドレスをもじもじと脱ぎ始めると、お母様がチッ! と舌打ちをした。
「ちょっと、そこのあなた! 何をボンヤリしているの? 早くビオレータがドレスを脱ぐのを手伝いなさい!」
「は、はい。奥様!」
「急いでちょうだい!」
お母様は近くにいた使用人へイライラと命令する。
「あ、あのお母様……? どうして私がドレスを脱ぐの?」
(私、こんなに恐ろしいお母様は初めて見たわ。いったい何が起きているの?)
私は背中のボタンを使用人に外してもらうあいだ、目が合ったお母様にたずねると、お母様は顔をしかめて口を開いた。
「ビオレータ…… マグノリアが家出したの」
「……は⁉」
「花嫁のドレスを着せて、髪も綺麗に結ってからお化粧も終わらせたら…… 結婚式をする神殿へ行く前に、少しだけ1人にしてほしいとマグノリアが言うから。私たちはあの子を残してこの部屋を出たの」
「まぁ……」
(なんでお姉様は結婚式の直前になって、逃げ出したの?)
お母様は悔しそうに赤い口紅をぬった形の良い唇を噛んだ。テーブルの上に置いてあった手紙を取って、私に手渡してくれる。
「私たちが部屋からいなくなったすきにマグノリアはドレスを着替えて、窓から逃げ出したのよ」
「まぁ…… なんてこと。いったいお姉様は何を考えているの?」
お母様に渡された姉が残した手紙を見ると…… それは姉のマグノリアから私に宛てたものだった。
“ビオレータへ。
大切な用事があるから、私の代わりにクロードと結婚しておいて。
あなたの姉マグノリアより”
思わず私は首を傾げた。
「……自分の結婚式よりも大切なこととは何かしら?」
マグノリアお姉様は昔から気が強くて大胆なところがある人で、私はそんなお姉様が羨ましかった。
私はお姉様とは違い気が小さくて流されやすい性格で、決められたルールや常識の中でしか上手く生きられないから。
だけど、こんな大きなことをやらかすなんて。ぼんやり気味の私でもさすがに呆れてしまう。




