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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第二部 誰のために作るのか編 __第一話 一日一皿は、選ぶということ 

辺境の村で暮らし始めて、一年が経った。

宮廷で過ごした年月よりも、この一年のほうが、よほど長く感じる。

レインの食堂は、小さな建物だった。

看板はなく、暖簾もない。

あるのは、毎日同じ時間に灯る明かりだけだ。

出す料理は、一日一皿。

それ以上でも、それ以下でもない。

その日は、朝から客が多かった。

畑仕事を終えた村人、子どもを連れた母親、旅装の男。

誰もが「今日は誰に出るのか」を口にしないが、視線だけが行き交う。

そんな中、扉を開けたのは、見慣れない客だった。

深くフードを被り、身分を示す装飾はない。

だが、足運びに無駄がない。

“指示を出す側”の歩き方だった。

「……今日は、何を出されますか」

声が弱い。

息が短く、無理に言葉を絞り出している。

「まだ、決めていません」

そう答えると、客はわずかに目を伏せた。

「私は……ほとんど食事を摂れません」

周囲の空気が、わずかに揺れた。

同情でも警戒でもない、判断を促す沈黙。

「病を抱えています」

「医師からは、無理に食べるなと」

レインは包丁を置き、客の手元を見る。

指先が冷たく、微かに震えている。

「それでも、来られた理由は?」

客は一瞬、言葉に詰まった。

「……食べられないまま生きるのが、

 少しだけ、怖くなった」

村人の一人が、息を呑む。

その瞬間、全員が気づいた。

この客を選べば、今日は誰も食べられない。

レインは、鍋に視線を落とした。

「一日一皿しか出しませんが、それでもいいですか」

「はい」

短い返事だった。

だが、そこに覚悟があった。

レインは、その客を選んだ。

不満の気配が、確かに残ったまま。

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― 新着の感想 ―
物語の空気が静かに切り替わる重要な場面だと感じました。 大きな出来事や強い言葉があるわけではないのに、「もう戻れないところまで来た」という感覚がはっきり伝わってきます。 何かを得た瞬間ではなく、何かを…
救える数と救われる深さの対比が際立つ。 王都との対話が、価値観の衝突ではなく“視点の違い”として描かれている点が成熟している。
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