表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/35

第四話 材料が味を決めている

食堂の扉が開いたのは、久しぶりに「朝のままの匂い」が残る時間だった。

昨日閉めたままだった厨房は、冷えた金属の匂いを抱えている。

レインは窓を開け、風を通し、まな板を出した。

火を入れる前に、今日の皿はほとんど終わっている。

終わっているからこそ、火は控えめでいい。

昨日仕入れた、見切りの素材。

水に触れさせ、呼吸を確かめ、触れすぎないように扱ってきた。

水分量が多い。皮の中に湿りが残っている。

だから、強火は使わない。

強火は、湿りを一気に追い出す。追い出した湿りは戻らない。

戻らないなら、最初から追い出さない。

鍋を置く。火をつける。

炎は細く、音が小さい。

油も香りを立てるほど熱しない。

香りを立てるのは、素材の残り時間を短くするからだ。今日は短くしてはいけない。今日は「終わらせる」日だが、急がせる日ではない。

塩も控える。

理由は味ではなく、素材の疲れだ。

塩は締める。締めると、疲れた素材は硬くなる。硬くなると、噛んだときに「欠点」が前に出る。

欠点を隠すために塩を使うのは、料理ではない。

欠点が欠点のまま終われるように、手を入れる。

客は昼の少ない時間帯に一人来た。

派手な料理を期待していない顔。

この食堂の良さを知っている顔。

レインは最低限の動きで皿を出した。

客は最初の一口で眉を動かし、次に肩の力を抜いた。

「……ちょうどいいな」

褒め言葉としては弱い。

だが、この食堂では一番強い言葉だった。

ちょうどいい――それは、余計なことをしていないという意味だ。

素材に無理をさせていないという意味だ。

そして、今日という期限に間に合ったという意味だ。

客が去った後、厨房に静けさが戻る。

レインは片付けを終え、台の端に残った「使わなかった素材」を見つめた。

見切り箱から拾ったものの中に、どうしても今日の皿に入らなかったものがある。

入れれば皿は増やせた。売上も増やせた。

だが入れると、素材の終わり方が壊れる。

レインは、その残りを見つめたまま動かなかった。

火を入れる前に終わっている仕事は、火を入れた後にも終わっていないことがある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここでようやく火が入ります。 しかし、読者は気づきます。 この皿は、火を入れる前にほとんど終わっていた。 強火を使わない理由 香りを立てない理由 塩を控える理由 すべてが **「素材の残り時…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ