第五話 作らないという仕事(第四部・完)
食堂を閉めて四日目、
レインは久しぶりに戸を開けた。
だが、すぐに火を入れることはしない。
人が集まり、静かに待つ。
「今日は、出るのか?」
誰かが聞いた。
「分かりません」
その答えに、空気が揺れる。
怒りはない。
だが、戸惑いが広がる。
帳簿係が一歩前に出た。
「話があるんだろ」
レインは頷いた。
「一日一皿は、毎日出す約束ではありません」
視線が集まる。
「作る日もあれば、作らない日もあります」
誰かが言った。
「それは、都合が良すぎないか?」
正論だった。
仕事として考えれば、なおさらだ。
「だから、ここで決めます」
レインは、言葉を選びながら続けた。
「作らない日も、この店の仕事に含めます」
ざわめきが起きる。
「休みは、逃げるためじゃありません」
「続けるためです」
静かになった。
「作らない日は、誰かを拒絶する日ではありません」
「選ぶことを、先送りにする日です」
帳簿係が腕を組み、頷く。
「分かりやすく言えば、無理をしないってことだ」
「そうです」
レインは、そこで初めて
勝手に広まっている料理の話をした。
「私がいなくても、
料理は広がります」
「でも、意図まで伝わるとは限らない」
「だから、私が作らない日が必要です」
誰かが小さく笑った。
「難しい仕事だな」
「はい」
レインも、少しだけ笑う。
「簡単だったら、ここまで続いていません」
話が終わると、
人々はそれぞれ帰っていった。
全員が納得したわけではない。
だが、
全員が聞いた。
それで十分だった。
夜、帳簿係が言う。
「売上は、少し楽になるかもしれん」
「ええ」
「でも、気持ちは楽にならんだろ」
レインは、少し考えてから答えた。
「……それでもいいです」
火を入れない鍋を洗い、布巾で拭く。
作らない日にも、やることはある。
選ばないという選択も、仕事だ。
レインはようやく、
その言葉を自分の中で受け入れ始めていた。




