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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第二話 期待という名の依存

食堂が閉まったまま迎える二日目の朝は、昨日よりも静かだった。

人は集まらない。

だが、誰もが一度は食堂の前を通り、貼り紙を確かめ、

足を止めてから去っていく。

その動きが、村全体の呼吸のように揃っていることに、

レインは奥の部屋から気づいていた。

昼前、帳簿係の男が再びやってきた。

昨日よりも表情が硬い。

「噂が広がってる」

開口一番、そう言う。

「辞める説が一番強い。次が王都復帰、最後が病気だ」

どれも、もっともらしい。

レインは否定しなかった。

「否定しないのか」

「理由がないので」

男は短く息を吐いた。

「それが一番、都合よく使われる」

午後、村の女が一人、食堂の裏口を叩いた。

料理を求めてではない。

「うちの子が、今日はこの店がある前提で動いてた」

責める口調ではなかった。ただ困っている。

「昼の予定が、全部ずれた」

レインは謝った。

だが、女は首を振る。

「謝られると、違う気がする」

そう言って去っていった背中が、妙に小さく見えた。

夕方になるにつれ、空気は変わる。

怒りではない。不満でもない。

代わりがないことへの戸惑いだ。

一日一皿は、いつの間にか「選ばれる出来事」ではなく、

「一日が始まる合図」になっていた。

帳簿係が、ぽつりと言う。

「もう、善意じゃないな」

「ええ」

「公共物だ」

その言葉が、胸に残った。

公共物。

誰のものでもなく、誰の都合でも動かせないもの。

レインは、そこまでの覚悟をしたことがあっただろうか。

作る覚悟はあった。

選ぶ覚悟もあった。

だが、期待され続ける覚悟は、後から追いついてきた。

日が落ちる頃、一通の依頼が届く。

丁寧な文字で書かれている。

「どうしても今日、お願いしたい事情があります」

理由は正当で、急を要する内容だった。

レインは紙を畳み、机に置いたまま動かなかった。

正しさがある。

必要性もある。

だがそれは、「作る理由」にはなっても、

「作らなければならない理由」ではない。

夜、食堂の前は完全に静まり返った。

灯りの消えた建物は、村の中でぽっかりと穴が空いたように見える。

レインはその闇を見つめながら思う。

作らないという選択は、料理を止めることではなかった。

人の期待を止めることでもない。

むしろ、

その期待の輪郭を、はっきり浮かび上がらせる行為だった。

それでも、明日の返事はまだ決めていない。

ただ一つ、分かっていることがある。

もしここで作れば、

それは善意ではなく、期待への服従になる。

レインは初めて、

自分が守ろうとしているものが料理そのものではなく、

「作るかどうかを選べる立場」なのだと気づき始めていた。

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― 新着の感想 ―
作らないことで、一日一皿が村にとって「当たり前」になっていたことや、人々の期待が依存に変わっている現実が浮かび上がり、レインの選択の重みと覚悟が静かに胸に迫る回です。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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