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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第六話 それでも、続ける一皿(第三部・完)

翌朝、食堂の戸はいつも通りの時刻に開いた。

だが、空気は少し違っていた。

誰も「今日は誰だ」と口にしない。

ただ、待っている。

レインは鍋に火を入れながら、

昨日の光景を思い返していた。

説明し、約束し、

そして「やめる覚悟」まで口にした。

仕事になったのだ。

否応なく。

昼前、見慣れない客が現れた。

町の模倣店の元店主だった。

派手さのない服装。

どこか疲れた表情。

「……少し、話を」

レインは頷き、

客席に案内した。

「店、閉めました」

その言葉は唐突だった。

「うまくいかなかったんです」

「一日一皿って、思ったより重かった」

レインは何も言わず、

湯を注いだ。

「選ばれなかった人が、毎日、目の前に残る」

「あれは……商売向きじゃない」

男は苦笑した。

「あなたは、どうして続けられるんですか」

レインは、しばらく考えてから答えた。

「続けられてはいません」

「続け直しているだけです」

男は、目を伏せた。

「……そういうことか」

男が去ったあと、

レインは帳簿係の男と並んで座った。

「赤字は、すぐには消えない」

「ええ」

「でも、崩れもしない」

「はい」

それで十分だった。

その日、レインは一日一皿を作った。

特別な料理ではない。

派手さもない。だが、

手間は惜しまなかった。

料理を受け取った村人が、小さく頭を下げる。

「ありがとう」

それは、

感謝でも期待でもなく、

確認に近い声だった。

(それでいい)

続けるということは、完成させることではない。

守り続けることでもない。

毎日、

やり直すことだ。

夜、

帳簿に小さな印を付けながら、

レインは思う。

一日一皿は、理想だった。

だが今は、仕事だ。

それでも――

仕事だからこそ、明日も火を入れられる。

一日一皿は、完成しない。

だからこそ、今日も仕事として、続けられる。

食堂の灯りが消える。

村は、静かに夜へ沈んでいった。

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― 新着の感想 ―
レインが“一日一皿”を理想から仕事へと昇華させ、完成や特別さではなく「続けることそのもの」に意味を見出す姿が、静かで深い感動を与える締めです。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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