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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第五話 仕事にするということ

その日は、朝から落ち着かなかった。

食堂の前に人が集まるのは、いつも通りだ。

だが、待ち方が違う。

視線が、どこか互いを探るようになっている。

「今日は……誰だと思う?」

囁き声が聞こえた瞬間、

レインは包丁を置いた。

(このままじゃ、だめだ)

鍋に火を入れる前に、

レインは扉を閉めた。

「今日は、料理を出しません」

ざわめきが起きる。

「またか?」

「どうして?」

レインは、奥の長椅子を指した。

「座ってください」

「少し、話をします」

誰もが戸惑いながらも、腰を下ろした。

帳簿係の男も、壁にもたれて腕を組む。

「一日一皿は、

 選ぶための仕組みではありません」

レインは、

一人一人の顔を見ながら言った。

「比べるためでも、特別になるためでもない」

誰かが口を開く。

「でも、選ばれない人は出るだろ」

「はい」

レインは否定しなかった。

「それは、なくせません」

空気が張り詰める。

「だから、これは“美しいやり方”です」

少し間を置いて、続ける。

「でも、仕事としては、歪んでいます」

ざわめきが大きくなる。

「続けるには、皆さんの理解と協力が必要です」

「説明をします」

「そして、説明し続けます」

それは、

これまで避けてきた言葉だった。

沈黙の中、老女がぽつりと言った。

「つまり、黙ってやってきたのが限界ってことかい」

「……はい」

正直な答えだった。

「じゃあ、どうするつもりだい」

レインは、用意してきた紙を広げた。

値段、仕入れ、手伝い、休み。

すべてが、

“続けるため”の案だ。

「変わることはあります」

「でも、一日一皿は守ります」

「守れなかったら?」

若い男が聞く。

レインは、

一瞬だけ迷ってから答えた。

「その時は、やめます」

その言葉に、

誰もが息を呑んだ。

「中途半端に続けるより、やめたほうがいい」

それは、

仕事としての覚悟だった。

長い沈黙のあと、

帳簿係が頷いた。

「……分かった」

「手伝おう」

一人、また一人と、

小さく頷きが広がる。

その日、

料理は出なかった。

だが、

食堂は満たされていた。

夜、帳簿係が言った。

「仕事になったな」

レインは、鍋を洗いながら答えた。

「はい」

「だからこそ、続けられるかもしれません」

外では、

町の模倣店の噂がまだ消えていなかった。

それでも、一日一皿は、

今日、“自分だけの理想”ではなくなった。

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― 新着の感想 ―
レインが“一日一皿”を仕事として捉え、理念を守りながら現実的な仕組みを説明する姿が、責任感と覚悟の重みを強く印象づける回です。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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