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追放された宮廷料理人ですが、辺境で一日一皿だけ作って生きます  作者: 百花繚乱


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第四話 理想が壊すもの

町の噂は、戻るより早かった。

「揉め事があったらしい」

「“一日一皿”の店で」

帳簿係の男が、仕入れの帰りにそう言った。

声は低く、面白がってはいない。

「客同士だ」

「選ばれなかった方が、選ばれた相手に絡んだ」

レインは包丁を置いた。

刃先に映る自分の顔は、少し歪んで見えた。

「大事には?」

「今のところは」

「でも、町の人間は敏感だ」

「“選ばれる”って言葉は、思ってるより刺さる」

その日の昼、

村でも小さな変化が起きた。

「今日は、誰が選ばれるんだ?」

若い男が、冗談めかして言う。

笑いは起きたが、どこか硬い。

「俺、昨日は外されたからさ」

その言葉に、何人かが視線を逸らした。

これまで、選ばれなかったことは、個人の事情だった。

だが今は、

“外された”という言い方が使われている。

レインは、その違いを見逃さなかった。

午後、

一人の女が食堂を訪ねてきた。

料理を求めてではない。

「うちの夫が、町の店で揉め事に巻き込まれた」

淡々とした口調だったが、指先が強く組まれている。

「怪我は?」

「軽い」

「でも……」

女は一度、言葉を切った。

「“選ばれなかったくせに”って、言われたそうです」

レインは、何も言えなかった。

料理は、誰かを優劣で測るためのものではない。

だが、

仕事として広まった瞬間、

そう使われる可能性を否定できない。

「あなたのせいじゃない」

女はそう言って立ち上がった。

だが、その言葉は慰めにはならなかった。

夕方、

村の若者が言った。

「町のやり方、うちでもやってみるか?」

「盛り上がるだろ」

冗談のつもりだ。

だが、笑えなかった。

「やらない」

レインは、はっきりと言った。

「ここでは、やらない」

「なんで?」

「選ばれることが、目的になるからです」

若者は納得しない。

「でも、選んでるのは同じだろ?」

レインは少し考え、答えた。

「選ぶのは、料理が届くためです」

「比べるためじゃない」

その夜、

帳簿係が言った。

「黙ってると、あんたのやり方も同じだと思われる」

「説明しないってのも、一つの選択だがな」

レインは、火を落とした鍋を見つめた。

理想は、

自分一人で抱えていればいいものではない。

仕事になった瞬間、

語らなければ、

勝手に別の意味を与えられる。

それを止める責任が、

いつの間にか、自分に回ってきていた。

外は、静かだった。

だがその静けさの下で、

一日一皿は、確実に形を変え始めている。

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― 新着の感想 ―
理想が外部で誤解され、選ぶことが競争や優劣の象徴に変わる現実を目の当たりにし、レインが理念を守る責任の重さを痛感する場面が胸に響きます。
この物語は、料理を通して「優しさとは何か」「選ぶとはどういう責任か」を、最後まで一切の安易さなく描き切った作品だと感じました。 一日一皿という制限は、単なる設定ではなく、善意が期待に変わり、やがて重荷…
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